「人が採れないので自動チェックイン機を入れたいが、補助金は使えるのか」
「調べると制度名がたくさん出てくるが、うちが対象なのか分からない」
「気づいたら公募が締め切られていた」
補助金についてご相談をいただくとき、この3つがほぼ毎回出てきます。制度の一覧を眺めても解決しないのは、補助金は「使えるものを探す」ものではなく、「やると決めた投資に合うものを選ぶ」ものだからです。順番が逆だと、要件に合わせて計画を歪めることになり、採択されても現場が使わない設備が残ります。
本記事では、宿泊業がまず押さえるべき観光庁の省力化投資補助事業を軸に、制度の選び方と申請までの段取りを整理します。公募の回次や締切は年度ごとに動きます。実際に申請するときは、必ず各制度の公式サイトで最新の公募要領を確認してください。
この記事の監修者
株式会社Dot Homes 代表取締役
留田 紫雲
サイバーエージェント、ABEJAでWebメディア運営とデジタルマーケティングに従事後、2015年に大学在学中でDot Homesを創業。2023年に西武ホールディングス傘下入りし、グループ最年少の子会社社長に就任。宿泊施設・スキー場など150以上のリゾートを支援。
補助金選びは「投資計画」から逆算する

最初にやることは、補助金を調べることではありません。「何のために、いくら投資するのか」を先に決めることです。決まっていれば、選択肢は自動的に絞られます。

| 投資の目的 | まず見る制度 |
|---|---|
| 人手不足を、設備で埋めたい(自動チェックイン、清掃ロボットなど) | 観光地・観光産業における省力化投資補助事業(観光庁)/中小企業省力化投資補助金 |
| 予約・顧客管理のシステムを入れ替えたい | デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金) |
| 新しい業態・新棟・新サービスに踏み出したい | 中小企業新事業進出補助金(旧・事業再構築補助金の後継) |
| 事業を譲り受ける・譲り渡す | 事業承継・M&A補助金 |
| 人を採る・育てる・処遇を上げる | 厚生労働省の雇用関係助成金 |
この表は入口の整理です。同じ設備でも、どの制度で取るかによって要件も補助率も変わります。まずは自施設の投資が上のどの行にあたるかを決めてください。
なお、当サイトで以前ご紹介していた「事業再構築補助金」は、制度としてはすでに公募が終了しています。新しい業態への挑戦を検討している場合は、後継にあたる中小企業新事業進出補助金をご覧ください。
宿泊業がまず見るべき|観光地・観光産業における省力化投資補助事業

観光庁が所管する、宿泊業に照準を合わせた補助事業です。人手不足の解消に向けた省力化投資を支援するもので、宿泊施設にとってはもっとも当てはまりやすい制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 観光地・観光産業における省力化投資補助事業 (令和7年度補正予算/令和8年度実施。旧・観光地・観光産業における人材不足対策事業) |
| 対象事業者 | 旅館業法第3条第1項の許可を受けた宿泊事業者 ※風俗営業等に該当する者、住宅宿泊事業(民泊)を営む者は対象外 |
| 要件 | 地域(DMO、地方公共団体等)と連携し、地域一体での求人活動など、人手不足の解消に向けた具体的な取組を行っていること |
| 補助上限 | 1施設あたり最大1,000万円 |
| 補助率 | 1/2 |
| 公募の受付期間 | 参加申込:令和8年3月27日13:00〜5月22日17:00 計画申請:令和8年3月27日13:00〜5月29日17:00 事業完了報告・精算書の提出は令和9年1月8日まで |
| いまの状況 | 受付は終了。令和8年6月30日に特定先が公表され、観光庁は「現時点で追加公募の予定はございません」としています |
| 特設サイト | kanko-jinzai.go.jp(省力化投資補助事業 特設Webサイト) |
押さえておきたいのは、対象が「旅館業法の許可を受けた宿泊事業者」に限られ、住宅宿泊事業(民泊)は対象外という点です。民泊として届出をしている物件は、この制度では申請できません。
もう一つの特徴が、地域との連携が要件に入っていることです。単独で設備を買うだけでは要件を満たしません。地域のDMOや自治体と、人手不足の解消に向けてどう動くのかを説明できる状態にしておく必要があります。
対象になる設備の例
業務の区分ごとに、公表されている設備の例を整理します。自施設のどの業務を減らしたいのかから選んでください。
補助率1/2の意味を、先に数字で確かめる

補助率1/2・上限1,000万円ということは、2,000万円の投資までは半額が補助され、それを超えた分は全額自己負担という意味です。ここを取り違えると、資金計画が狂います。

| 投資額 | 補助額 | 自己負担 |
|---|---|---|
| 500万円 | 250万円 | 250万円 |
| 1,000万円 | 500万円 | 500万円 |
| 2,000万円 | 1,000万円(上限) | 1,000万円 |
| 3,000万円 | 1,000万円(上限で頭打ち) | 2,000万円 |
加えて、補助金は原則として後払いです。設備の代金はいったん全額を自社で支払い、実績報告と検査を経てから入金されます。つまり申請時点で、投資額の全額を用意できるか、つなぎ融資の目処が立っている必要があります。「補助が出るから買える」ではなく「買えるものに補助が付く」と考えてください。
いま出せるものはあるか|観光庁の公募状況

省力化投資補助事業の受付は終わっていますが、観光庁は年間を通じて複数の補助事業を公募しています。執筆時点で公募中のもののうち、宿泊事業者が関係しうるものを挙げます。
| 事業名 | 締切 | どんな施設向けか |
|---|---|---|
| 令和8年度「MICE施設の受入環境整備事業」二次公募 | 令和8年10月30日 | 会議・研修・学会の受け入れができる施設。宴会場や大型会議室を持つホテル・旅館 |
| 令和8年度予算「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」 | 令和9年2月26日 | 温泉地の廃屋が景観や誘客の足かせになっている地域。単独の施設ではなく地域単位の取組が前提 |
| 【令和7年度補正】観光地経営の高度化事業(人材育成補助金)三次公募 | 令和8年10月30日 | 設備ではなく人への投資。研修・育成の仕組みを整えたい施設 |
締切と要件は変わります。観光庁の「公募情報」のページを月に一度でも見る習慣をつけておくと、締切間際に慌てることがなくなります。設備の省力化に絞って待つより、いま自施設の課題に合う枠があるかを毎回見にいくほうが、結果的に使える回数は増えます。
申請までの段取り

公募が出てから準備を始めると、たいてい間に合いません。公募期間はおおむね2か月前後で、そのあいだに見積もりの取得と計画書の作成を終える必要があるためです。以下は、公募が出る前から動いておける順番です。

- 削りたい業務を1つ決める。フロント、予約、清掃、バックサポートのどれか。複数を同時に狙わない
- その業務に今かかっている人件費を出す。月あたりの延べ時間 × 時給。ここが投資判断と申請書の両方の土台になる
- 設備の候補を2〜3社から見積もる。導入費だけでなく、月額の保守費・通信費まで含めて比較する
- 地域との連携の材料を用意する。DMOや自治体の求人施策、合同説明会などへの参加実績・予定
- 資金の出どころを確認する。後払いを前提に、つなぎの手当てを金融機関と相談しておく
- 公式サイトの公募情報を定期的に確認する。メール配信があれば登録しておく
2番の「今かかっている人件費」を出しておくと、申請書の説得力が変わります。「業務が楽になる」ではなく「月◯時間、年◯円分の作業が減る」と書けるからです。同時に、この数字が出た時点で、そもそも補助金なしでも投資すべきかどうかが判断できます。
その他の制度を見るときの注意点

デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)
2026年度から名称が「デジタル化・AI導入補助金」に変わりました。基本的な枠組みは従来のIT導入補助金から引き継がれています。あらかじめ登録されたITツールしか対象にならないのがこの制度の特徴で、入れたいシステムが登録されているかを先に確認する必要があります。申請は、原則としてIT導入支援事業者と組んで行います。
中小企業新事業進出補助金
事業再構築補助金の後継にあたる制度です。既存事業とは異なる市場・製品への進出が前提になるため、「既存の宿の設備を新しくする」だけでは通りません。グランピングの新設、遊休施設の宿泊転用、宿泊以外の収益源の立ち上げなど、事業の中身が変わる投資が対象です。事業計画の作成負荷は省力化投資補助事業より重くなります。
自治体独自の制度も並行して探す
国の制度だけでなく、都道府県・市町村が独自に持っている補助制度もあります。金額は国の制度より小さいことが多いものの、競合が少なく、要件が地域の実情に合っているという利点があります。観光振興課・商工課の窓口に一度直接聞いてみるのが早道です。国の制度との併用可否も、その場で確認できます。
つまずきやすいところ

- 交付決定の前に発注してしまう。 ほとんどの制度で、交付決定より前に契約・発注した経費は対象外になります。「先に押さえておこう」が命取りになります
- 相見積もりを取っていない。 一定金額以上は複数社からの見積もりが求められるのが通例です。あとから取り直すことになります
- 実績報告の書類が集まらない。 契約書・請求書・振込控え・納品写真まで求められます。導入時に揃えておかないと、あとから再発行に走ることになります
- 補助金ありきで設備を選ぶ。 対象になるからという理由で選んだ設備は、現場が使いません。使われない設備は、補助が出ても損です
よくある質問
民泊でも使える補助金はありますか
観光庁の省力化投資補助事業は、住宅宿泊事業(民泊)を営む者を対象外としています。一方、デジタル化・AI導入補助金のように、事業者の要件が中小企業・小規模事業者であることで判定される制度は、業態にかかわらず検討できます。制度ごとに対象者の定義が違うので、公募要領の「補助対象者」の項を必ず読んでください。
申請代行を頼んだほうがいいですか
事業計画の作成が重い制度(新事業進出補助金など)では、認定支援機関などの支援を受けるのが一般的です。ただし成功報酬の率と、不採択だった場合の扱いは事前に確認してください。また、事業の中身を語れるのは事業者本人だけです。丸投げにすると、審査で聞かれたときに答えられない計画書ができあがります。
今年の公募が終わってしまいました
多くの制度は年度ごとに公募されます。次の機会に向けて、上の「申請までの段取り」の1〜5を先に済ませておいてください。公募が開いてから動く施設と、すでに見積もりと数字が揃っている施設とでは、準備できる期間が実質2か月違います。
なお、省力化投資補助事業については、令和8年6月に特定先が公表された時点で観光庁が「現時点で追加公募の予定はございません」としています。今年度分を待つのではなく、次年度の公募に向けて準備を進めるか、いま公募中の別の枠を検討するかのどちらかになります。
まとめ

補助金は、投資の意思決定を後押しする道具であって、投資の理由にはなりません。削りたい業務を1つ決め、そこにかかっている人件費を出し、補助がなくても投資すべきかを先に判断する。その上で使える制度があれば申請する、という順番が結局いちばん早く、現場でも使われる設備が残ります。
制度の内容と公募スケジュールは年度ごとに変わります。本記事の内容は執筆時点で公表されているものです。申請にあたっては、各制度の公式サイトで最新の公募要領を必ずご確認ください。
参考にした公表資料
- 観光庁 公募情報「【令和7年度補正予算】観光地・観光産業における省力化投資補助事業に係るの申請受付期間のお知らせ」
- 観光庁 公募情報「『観光地・観光産業における省力化投資補助事業』における特定結果のお知らせ」
- 観光庁 公募情報 2026年一覧
- 省力化投資補助事業 特設Webサイト(kanko-jinzai.go.jp)
- 中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました」
- 中小企業基盤整備機構「中小企業新事業進出補助金」
設備を入れる前に、集客側も点検しておきたい方へ
省力化の投資は、稼働があってはじめて回収できます。設備を入れる前に、そもそも予約が積み上がる状態になっているかを確認しておくと、投資判断の精度が上がります。
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