ホテル清掃は、人手不足の影響を最も受けやすい業務です。ただし時短だけを優先すると、清掃品質が落ちてクレームが増え、手戻りで結局時間が増えるという逆効果になりやすいのが現実です。
清掃の効率化で大事なのは、作業を急がせることではなく、歩く・探す・戻るを減らし、迷いと手戻りを減らし、進捗が見える状態を作ることです。
本記事では、品質を落とさずに作業時間を短縮するための動線設計・標準手順・チェックの考え方を、現場で再現できる形で整理します。
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清掃が回らなくなる3つの原因

清掃が回らなくなる施設では、人手不足だけが原因ではありません。運用面の問題が積み重なることで、離職率が上がり、さらに人手不足が加速するという悪循環に陥ります。
1. 段取りの悪さで疲弊する
清掃現場では、必要な備品を取りに何度も戻ったり、客室内で無駄に歩き回ったりする光景がよく見られます。フロア間の移動が非効率で、作業の優先順位も不明確なため、スタッフは余計な体力を消耗してしまいます。
実はこれらの問題は、作業者のスキル不足が原因ではありません。動線設計と準備の仕組みが整っていないことが根本的な原因です。適切な動線を設計し、準備プロセスを見直すだけで、大幅な改善が見込めます。
2. できたか分からず不安になる
チェック基準が口頭だけで伝わっていたり、人によって「合格」の基準が違ったりすると、作業者は常に不安を抱えながら仕事をすることになります。完了報告の方法も曖昧で、見落としがあっても気づけない状態では、自信を持って作業を終えることができません。
基準が曖昧な環境では、ある作業者は時間をかけすぎて過剰品質になり、別の作業者は基準を満たせずクレームを招くという、両極端な問題が同時に発生してしまいます。
3. 注意される基準が人によって違う
ベテランAさんから教わった方法と、新人Bさんから聞いた方法が違う。前回は問題なかったのに、今回は同じやり方で注意される。例外対応のルールも共有されておらず、暗黙の了解が多いため新人がなかなか育たない。
このような環境では、スタッフは「どうすれば正解なのか」が分からず、常に不安とストレスを抱えることになります。結果として、モチベーションが低下し、離職率の上昇につながってしまいます。
清掃品質の低下がもたらす悪影響
口コミサイトでの低評価は、客室清掃の不備が最も多い指摘事項です。髪の毛1本、水滴の跡、タオルの交換漏れなど、些細に見える問題が予約率に直結します。手戻りが増えると、さらに時間が足りなくなり、負のスパイラルに陥ります。
改善の前に「分解」する:どこで時間がかかっているかを理解する

効率化の第一歩は、清掃業務を分解してボトルネックを特定することです。
| 業務タイプ | 作業内容 | 所要時間目安 | 特性 |
|---|---|---|---|
| チェックアウト後清掃 | 全ての備品交換・清掃 | 20〜60分/室 | 負荷が最も高い |
| 連泊清掃 | ベッドメイク・補充のみ | 10〜15分/室 | ゲスト対応が必要 |
| 定期清掃 | エアコン・カーテン等 | 別途設定 | 月次・年次で計画 |
施設タイプ別の平均作業時間
施設のタイプによって、清掃にかかる時間は大きく異なります。ビジネスホテルは設備がシンプルで定型化しやすいため、1室あたり20〜30分程度で完了できます。一方、シティホテルは設備が多くアメニティも充実しているため、30〜40分程度が一般的です。リゾートホテルや旅館では、和洋室の複雑な構造や特別な備品、細部へのこだわりから、40〜60分程度を要することが多くなります。
自施設の基準を作る
上記はあくまで「比較用の目安」です。実務では、自施設の平均を出し、曜日別・部屋タイプ別に分けることで「どこが遅いか」が見えるようになります。例えば「金曜の和室だけ10分遅い」といったパターンが分かれば、そこに集中して改善できます。
時間が溶けている場所を特定する
清掃時間の内訳を分析すると、実は実作業に使われている時間は全体の50〜60%程度に過ぎません。残りの時間は何に使われているのでしょうか。移動や準備(カート準備、客室間移動、備品を取りに戻るなど)に20〜30%、確認や手戻り(チェック、やり直し、報告)に10〜20%の時間を使っているのが実態です。
これは裏を返せば、実作業以外の部分で30〜50%もの時間を消費しているということです。ベッドメイクや拭き掃除を速くすることより、この無駄な時間を削減することこそが、効率化の本質なのです。
宿泊施設全体の生産性向上については、以下の記事で詳しく解説しています。
効率化の全体像(何から手を付けるか)

| 領域 | 狙い | 具体策 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 動線設計 | 歩く/戻るを減らす | 客室内順序の固定、フロア順のルール | 体感で時短が出やすい |
| 標準化 | 迷い/手戻りを減らす | 必須/任意の分離、例外フロー | 品質が揃い教育が短くなる |
| 進捗の見える化 | 待ち時間を減らす | 完了報告の仕組み、フロント連携 | 販売機会ロスが減る |
| 備品管理 | 探す時間を減らす | カート配置の統一、在庫チェック | 準備時間が短縮 |
優先順位としては、動線設計→標準化→進捗の見える化→備品管理の順で取り組むのが効果的です。動線は即効性があり、標準化は教育コスト削減につながります。
動線設計:順番を固定すると速くなる

動線は歩数で、歩数は時間です。客室内の順序が人によって違うと、戻りが増え、抜け漏れが増えます。
客室内の標準動線(例)
客室清掃の標準的な動線は、準備から始めて最終チェックで終わる一連の流れとして設計します。まず、カートを客室前に配置してドアを開け、換気しながら全体の状態を確認します。次に、ベッド周りに移り、リネンを剥がしてからベッドメイクを行い、サイドテーブルを拭きます。
続いて水回りに移動し、バスルームから洗面、トイレへと奥から手前に向かって進みます。その後、デスク、テレビ台、クローゼットの順で家具を拭き、必要な備品を補充します。床は部屋の奥から入口に向かって掃除機をかけ、モップで仕上げます。最後に、忘れ物がないか確認し、照明とエアコンの状態をチェックして、ドアを施錠して完了です。
動線固定のメリット
順序を固定すると、作業者は「次に何をするか」を考える時間がゼロになります。また、チェック漏れも減り、新人教育もスムーズになります。施設ごとに最適な順序は異なるため、ベテランの動きを観察して標準化しましょう。
フロアの回り方のルール
フロアを回る順序も、効率化の重要なポイントです。基本はエレベーターから近い順に回ることで、移動時間を最小化できます。複数人で作業する場合は、奇数号室と偶数号室で担当を分けることで、廊下での衝突や作業の重複を避けられます。
延長チェックアウトや特急対応が必要な客室は、通常フローに組み込まず、専任者が別枠で対応する方が全体の効率を保てます。例外を通常フローに混ぜると、全体のリズムが崩れて遅延が発生しやすくなるためです。
例外対応の切り分け
例外対応は、通常の清掃フローとは切り離して考えることが重要です。忘れ物を発見した場合は、その場でフロントに連絡を入れつつ、清掃作業は継続します。強い汚れや備品の破損が見つかった場合は、まず写真を撮影して報告し、通常清掃を終えた後に時間を分けて対応します。
連泊のゲストが在室している場合は、清掃時間をずらすか、事前に希望時間を確認しておく必要があります。これらの例外を通常フローに混ぜてしまうと、全体のスケジュールが乱れて遅延が発生します。別枠で対応する仕組みを作ることで、効率を保ちながら柔軟な対応が可能になります。
標準化:基準を揃えると手直しが減る

標準化は縛るためではなく、迷いと手戻りを減らすために行います。
標準化の3つのレベル
| レベル | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 必須 | 絶対にやる(安全・衛生) | タオル交換、ゴミ処理、床清掃 |
| 標準 | 通常やる(品質維持) | デスク拭き、備品補充、ベッドメイク |
| 任意 | 余裕があればやる | カーテン整え、クローゼット整理 |
この3段階を明確にすることで、時間が押している時でも「最低限守るライン」が明確になり、品質の下限を守れます。
チェックリストの作り方
効果的なチェックリストは、全項目を毎回チェックするものではなく、確認が必要な項目だけを記録するものです。
- NG例:「ベッドメイク完了」「デスク拭き完了」など全項目を毎回チェック(負担が大きく形骸化)
- OK例:「異常あり」の項目だけ記録、写真添付(現場負担が少ない)
チェックリストの実例
- □ 忘れ物あり(写真撮影、フロント連絡)
- □ 備品破損あり(種類と場所を記録)
- □ 汚れが取れない(写真、要専門対応)
- □ 異常なし(何も記録しない)
「異常なし」が90%以上なら、記録不要にして現場負担を減らすのが現実的です。
例外フローの明文化
- 備品破損:写真→フロント報告→交換手配(清掃は継続)
- ゲスト体調不良の痕跡:作業中断→責任者連絡→専門清掃判断
- 連泊ゲストの特別リクエスト:事前情報を申し送りで共有
例外を「その都度判断」にすると、属人化して教育コストが上がります。典型的な例外パターンをマニュアル化しておきましょう。
人件費の適正化と業務効率化については、以下の記事で詳しく解説しています。
進捗の見える化:連携がスムーズになる

清掃完了がフロントに伝わるのが遅いと、販売機会を逃しやすくなります。
レベル1:ホワイトボード方式
- メリット:導入コストゼロ、シンプル
- デメリット:フロントまで行かないと見えない、リアルタイム性が低い
レベル2:チャット・内線連絡
- メリット:即時連携、記録が残る
- デメリット:件数が多いと埋もれる
レベル3:PMSと連携
- メリット:自動で在庫開放、ダブルチェック不要
- デメリット:初期費用、システム導入が必要
最初から完璧を目指さない
いきなりレベル3を目指すと、導入コストと教育コストで挫折します。まずはレベル1(ホワイトボード)で運用を始め、問題点を洗い出してから、レベル2や3に移行するのが現実的です。
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78施設以上
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379%向上
予約率改善事例
38%→77%
独自データベース
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フロントとの連携で伝えるべき情報
フロントとの連携では、情報を絞り込むことが成功の鍵です。最低限伝えるべきは、清掃完了の連絡(「○○号室、販売可能」)、異常報告(「△△号室、備品破損あり、要確認」)、遅延見込みの事前連絡(「□□号室、汚れがひどく+15分かかる見込み」)の3点です。
これ以上に情報項目を増やすと、現場の入力負担が増えて形骸化し、かえって連携が取れなくなります。まずはこの3つの情報を確実に伝える仕組みを作り、運用が定着してから必要に応じて追加項目を検討しましょう。
備品管理:探す時間を減らす

清掃カートの配置が統一されていないと、「あのタオルどこだっけ?」と探す時間が発生します。
カート配置の標準化
清掃カートの配置は、使用頻度に応じて階層的に整理します。上段にはタオルやシーツ、洗剤など、作業中に頻繁に使うものを配置します。中段にはアメニティやトイレットペーパーなどの補充用備品を、下段にはゴミ袋や汚れたリネンを置くのが効率的です。
人によって配置がバラバラだと、代わりに入ったスタッフが「あのタオルどこだっけ?」と探す時間が発生してしまいます。カート配置図を作成して施設全体で統一することで、誰でもスムーズに作業を進められるようになります。
在庫切れを防ぐ仕組み
在庫切れによる作業中断を防ぐには、作業開始前の点検が欠かせません。カートに必要な備品がすべて揃っているかを確認し、不足分は作業を始める前に補充します。作業中に取りに戻ると、大幅な時間ロスになるためです。
さらに効果的なのは、補充担当者を清掃担当と分離することです。清掃スタッフは清掃に集中し、別の担当者がカートの準備と補充を行う体制にすることで、両方の作業効率が向上します。
まとめ

清掃効率は、急がせるほど崩れます。動線と標準化でムダ歩きと手戻りを減らし、進捗の見える化で連携を整えると、品質を守りながら時短しやすくなります。
清掃効率化の4つの柱
- 動線設計:客室内の順序固定、フロアの回り方ルール化で「歩く・戻る」を減らす
- 標準化:必須/標準/任意の3段階で「迷い・手戻り」を減らし、教育コストを削減
- 進捗の見える化:フロント連携で販売機会ロスを防ぎ、待ち時間を削減
- 備品管理:カート配置統一、事前点検で「探す時間」を最小化
これらの施策を組み合わせることで、品質を維持しながら作業時間を30%短縮することが可能です。
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