近年、宿泊業界において「OTA(Online Travel Agency)」の重要性が急速に高まっています。コロナ禍を経て旅行業界が回復するなか、オンライン予約の需要は加速度的に増加し、特にインバウンド観光の本格的な復活により、海外からの予約獲得が宿泊施設の収益に大きな影響を与えるようになりました。
しかし「OTAを導入したいが何から始めればよいかわからない」「手数料が高いが本当に効果はあるのか」「複数のOTAから何を選べばよいのか」といった悩みを抱える方も珍しくありません。
本記事では、OTAの基本概念から国内外の主要サービスの特徴、導入のメリット・注意点、そして実際の導入手順まで、宿泊施設がOTAを効果的に活用するために必要な知識を体系的に解説します。
これからOTA導入を検討している方はもちろん、既に利用中だがより効果的な運用方法を模索している方にとっても、役立つ内容をお届けします。
OTAとは?

OTA(Online Travel Agency)は、インターネット上で宿泊予約や旅行商品を販売するオンライン旅行代理店のことです。従来の店舗型旅行代理店とは異なり、24時間いつでもオンラインで予約が可能で、利用者は複数の宿泊施設を簡単に比較検討できます。
宿泊施設側にとっては、自社の公式サイトだけでは届かない幅広い顧客層にアプローチできる重要な販路となっており、現代の宿泊業界において欠かせない集客チャネルとして位置づけられています。
国内主要OTAサービス

日本国内のOTA市場は高度に成熟しており、各プラットフォームが明確な特色と差別化戦略を展開しています。
以下では、国内主要OTAサービスの特徴と戦略的活用方法を詳しく解説します。
※2025年5月現在の情報です。
楽天トラベル
日本国内のOTA市場は高度に成熟しており、各プラットフォームが明確な特色と差別化戦略を展開しています。
楽天トラベルは楽天グループが運営する国内最大規模のOTAで、楽天ポイント還元システムによる楽天経済圏との連携が最大の特徴です。2024年の市場調査では利用率39.8%でトップシェアを誇り、楽天カードや楽天市場などとの相乗効果により強固な顧客基盤を構築しています。
手数料体系については、以下のように設定されています。
- 1人利用:8.64〜10.64%
- 2人以上:9.99〜11.99%
- 事前決済時:追加で2%の手数料
楽天ポイントの高い還元率により利用者のリピート率が高く、特にビジネス利用や価格重視の顧客層から支持を得ています。2024年の宿泊施設掲載数は42,000件を超え、豊富な選択肢と楽天の巨大な顧客基盤により、宿泊施設にとって安定した集客チャネルとなっています。
じゃらん
じゃらんはリクルートが運営するOTAで、国内最大級の閲覧数と豊富な口コミ情報が特徴です。観光情報サイトとしての側面も強く、地域密着型のコンテンツが充実しており、旅行計画全体をサポートする総合的なプラットフォームとして位置づけられています。
特に家族旅行向けのプランや子連れ歓迎の施設検索機能が充実しており、幅広い年齢層の利用者に支持されています。
Pontaポイントとの連携により、ローソンなど身近な店舗でのポイント利用が可能な点も魅力となっています。
一休.com
一休.comは高級志向の富裕層をターゲットとした会員制OTAです。利用実績に応じた会員ランク制度を導入しており、ポイント還元率は以下のように設定されています。
会員ランク | 還元率 |
レギュラー | 2% |
ゴールド | 3% |
プラチナ | 4% |
ダイアモンド | 5% |
手数料体系は他のOTAと比較して競争力のある水準で設定されており、高単価顧客の獲得により収益性の高い運営が可能です。利用者層は40代以上の高所得者が中心で、記念日利用や接待利用などの高付加価値な宿泊ニーズに対応しています。
るるぶトラベル
るるぶトラベルはJTBが運営するOTAで、観光情報誌「るるぶ」ブランドとの連携による地域密着型の情報提供が最大の特徴です。手数料は基本8.0%で設定されており、JTBの豊富な旅行商品との連携により付加価値の高いサービスを提供しています。
特に地方観光地や温泉地の集客に強みを持ち、「見る・食べる・遊ぶ」をテーマとした観光スポットと宿泊施設の効果的な組み合わせによる訴求を行っています。るるぶブランドの認知力がある中高年層や家族連れの利用が多い傾向にあります。
Relux
Reluxは厳選された宿のみを掲載する会員制OTAで、デザイン性の高い施設や独自性のある宿泊体験を重視したプラットフォームです。「どんな未体験に泊まろう。」をコンセプトに、他では体験できない価値を提供する施設に特化しており、独自の審査基準により掲載施設を選定しています。
利用者層は20代後半から40代の感度の高い顧客が中心で、Instagram等のSNSでの情報発信も活発です。ブティックホテル、デザイナーズホテル、古民家再生宿泊施設など、個性的で魅力的な宿泊施設にとって、ユニークな魅力や体験価値を適切に評価される環境を提供しています。
参照:宿泊予約サービス「Relux」、中国トップクラスの旅行サービスプラットフォーム「Fliggy(フリギー)」と連携販売を開始
海外主要OTAサービス

インバウンド観光の本格復活により、海外からの宿泊予約獲得は宿泊施設の収益向上において極めて重要な要素となっています。また、海外OTAでは口コミやレビューシステムの重要性が国内以上に高く、国際的な信頼性確保のためには継続的な顧客満足度向上が不可欠です。
ここでは、インバウンド集客において特に重要な海外主要OTAサービスの特徴と戦略的活用方法を詳しく解説します。
Booking.com
Booking.comは世界最大級のOTAプラットフォームで、228の国と地域でサービスを展開し、43言語に対応しています。月間アクティブユーザー数は1億人を超え、特に欧米からの集客に圧倒的な強みを持っています。
手数料は15.0%で、事前決済も同率となっており、他のOTAと比較してやや高めの設定ですが、その分強力な集客力と国際的なブランド力を提供しています。無料キャンセル可能な料金プランが充実しており、利用者にとって予約しやすい環境を提供している点が特徴です。
Agoda
Agodaはアジア圏からの集客に特化したOTAで、最安値訴求型のマーケティング戦略が特徴です。2024年の調査では、民泊向けOTAランキングでシェアを大きく伸ばしており、特に東南アジア、韓国、台湾、香港からの訪日観光客の取り込みに効果を発揮しています。
参照:民泊向けOTAランキング
手数料は国内向けが9%、海外向けが12%となっており、価格競争力のある宿泊施設に適した料金体系です。「最安値保証」を前面に打ち出したプロモーション戦略により、価格重視の顧客層からの支持を得ています。
Expedia
Expediaはパッケージ商品(宿泊+航空券)が充実している総合旅行サイトで、北米からの利用者が多いプラットフォームです。航空券、レンタカー、現地ツアーなどを組み合わせたワンストップサービスにより、長期滞在や複数都市周遊型の旅行者に人気があります。
手数料は8%で設定されており、パッケージ商品での予約時には更なる割引率を提供できます。特に家族旅行や団体旅行での利用が多く、まとまった予約獲得が期待できます。
Trip.com
Trip.comは中国発の大手旅行サイトで、中国人観光客向けサービスに強みを持ちながらもグローバル展開を進めるプラットフォームです。Trip.comグループ全体で約4億人の会員数を誇り(中国国内Ctripブランドで約3億人、国際市場向けTrip.comブランドで約1億人)、中国市場への展開を考える宿泊施設には必須のOTAとなっています。手数料は前払い15%、現地払い12%で設定されています。
訪日中国人観光客の約2人に1人が利用するとされ、中国人向けの決済システム(Alipay、WeChat Pay等)に対応し、中国語でのカスタマーサポートも充実しています。また、39ヵ国・地域で24言語、35種類の現地通貨でのサービス提供など、グローバルな旅行者向けの機能も強化しています。
参照:Trip.comグループ(旧シートリップ)の日本トップに聞いてきた、訪日中国人客の地方送客から日本人の海外旅行の展開まで
Airbnb
Airbnbは民泊・一棟貸しに特化したプラットフォームで、従来のホテルとは異なるユニークな宿泊体験を提供する施設に適しています。手数料は5%(ゲスト手数料約11%)で、他のOTAと比較して低い水準で設定されています。
「現地の暮らしを体験する」というコンセプトにより、文化交流や地域体験を重視する旅行者から支持を得ています。特に若年層やバックパッカー、長期滞在者に人気があり、従来のホテル業界では対応困難な多様な宿泊ニーズに対応しています。
参照:【Airbnb Japan 2024 冬のトラベルトレンド】暮らすようにエアビーする、さまざまな地域を訪れる分散型の旅へ
特に若年層やバックパッカー、長期滞在者に人気があり、従来のホテル業界では対応困難な多様な宿泊ニーズに対応しています。
宿泊施設にとっては、ユニークな立地や建物を活用した差別化戦略が可能で、特に地方の古民家や都市部のデザイナーズ物件、ユニークな体験を提供できる施設での活用価値が高いプラットフォームです。
OTA導入の5つのメリット

宿泊施設にとってOTA導入は、従来の営業手法では困難だった幅広い顧客層へのアプローチを可能にする革新的な集客手法です。
特にデジタル化が進む現代において、消費者の予約行動の大部分がオンラインに移行している中で、OTAプラットフォームへの対応は競争力維持の必須要件となっています。
ここでは、OTA導入によって宿泊施設が得られる具体的な5つのメリットを詳しく解説します。
初期費用ゼロで始められる
OTA導入最大のメリットは、掲載開始に初期費用が一切不要で、月額固定費も発生しない点です。
予約が成立した時のみ手数料(8〜15%)が発生する完全成果報酬型のため、予約が入らなければコストは一切かかりません。
この仕組みにより、資金力に限りのある小規模な宿泊施設でも気軽に始められ、リスクを最小限に抑えながら新たな販路を開拓できます。従来の広告宣伝費と比較しても、効果が確実に見える投資として非常に魅力的です。
強力な集客力がある
主要OTAは月間数千万人が利用する巨大な集客プラットフォームで、自社の公式サイトだけでは到達困難な膨大な潜在顧客にアプローチできます。
特に新規開業や知名度の低い施設にとって、OTAの認知力は絶大な効果を発揮します。検索機能やレコメンド機能により、条件に合致する顧客へ自動的に露出され、積極的な営業活動を行わなくても予約獲得のチャンスが生まれます。
この集客力の高さによって、短期間での売上向上を狙える可能性があります。
インバウンド対応が容易に
OTAの多言語対応機能により、海外からの集客が飛躍的に容易になります。訪日外国人の70%以上がOTAを利用するという高い普及率があり、自社で多言語サイト構築や海外向けマーケティングを行う手間とコストを大幅に削減できます。
英語、中国語、韓国語など主要言語での情報発信が自動的に行われ、各国の旅行者の予約習慣に合わせた決済方法も提供されるため、インバウンド市場への参入障壁が大幅に下がります。
営業コスト削減が可能
従来の営業活動や広告宣伝にかかる人件費・広告費を大幅に削減できます。24時間自動予約受付により、営業時間外の機会損失も防ぐことが可能。また、予約・決済処理の自動化により事務作業の効率化も実現します。
加えて、電話応対やメール対応の時間も削減され、スタッフはより付加価値の高い業務に集中できます。予約確認書の自動送信や事前決済機能により、当日のチェックイン業務もスムーズになり、全体的な運営効率が向上します。
データを活用できる
OTAプラットフォームから得られる顧客属性データや予約傾向の分析により、科学的根拠に基づいた経営判断が可能になります。
繁閑期に応じて柔軟に料金設定ができるため、収益最大化を図れます。また、競合施設との比較分析を通じて自社の強みや改善点を客観的に把握できるでしょう。
予約データから読み取れる顧客のニーズや行動パターンを活用し、より効果的なプランニングやサービス向上につなげることで、競争力強化にもつながります。
OTA導入の3つの注意点

OTAは強力な集客力と運営効率化をもたらす一方で、宿泊施設の経営戦略においては慎重に検討すべきです。
ここでは、OTA導入の注意点を3つ紹介します。
手数料負担が大きい
OTA利用最大のデメリットは、予約成立ごとに発生する8〜15%の手数料負担です。予約数が増加するほど手数料総額も膨らみ、利益を圧迫する要因となります。特に客単価の低い施設や薄利多売型の経営では、手数料負担が経営を圧迫するリスクがあります。
そのため、手数料を織り込んだ適切な料金設定と収益計画の策定が不可欠で、直販比率の向上や付帯サービスによる客単価アップなど、総合的な収益戦略の検討が重要です。
価格競争リスクがある
OTAでは競合施設との価格比較が容易なため、価格競争に陥りやすい環境があります。価格のみでの差別化は限界があり、安易な値下げ競争は業界全体の収益性を悪化させるリスクがあるでしょう。
顧客が価格だけで宿泊施設を選ぶ傾向が強まると、客単価の低下やブランド価値の毀損につながる可能性があります。そのため、立地・設備・サービス・体験価値など、価格以外の付加価値を明確に訴求し、独自のポジショニングを確立する差別化戦略が極めて重要です。
ブランド構築が難しい
OTAの統一されたフォーマットでは、施設独自の魅力や個性を十分に伝えることが困難です。顧客との接点がOTA経由に限定されるため、直接的な関係構築やブランドロイヤリティの醸成が困難になります。
リピーター獲得や口コミ拡散も、OTAプラットフォーム内での評価に依存しがちで、自社ブランドの認知度向上には別途戦略が必要です。
公式サイトやSNSを活用した独自のブランディング活動と、OTA経由の顧客を自社ファンに転換する仕組み作りが重要な課題となります。
OTA導入の5ステップ

OTA導入を成功させるためには、戦略的かつ段階的なアプローチが不可欠です。単純にアカウントを開設して施設情報を掲載するだけでは、OTAの持つ強力な集客力を最大限に活用することはできません。
ここでは、OTA導入を成功に導く5つのステップを具体的に解説します。
自施設分析と戦略設計
OTA導入の成功には、自施設の強み・弱み・ターゲット顧客の明確化が不可欠です。まずは、立地・設備・サービス・価格帯を客観的に分析し、競合施設のOTA掲載状況と料金戦略を詳細にチェックすることが肝心です。
そのうえで、以下の具体的な目標を設定します。
- 稼働率向上
- 客単価アップ
- 総売上増加
ターゲット顧客層に最も効果的にアプローチできるOTAを選定し、複数のOTA利用も視野に入れ、それぞれの特色を活かした戦略的な使い分けを検討することで、集客効果の最大化が図れるはずです。
アカウント登録と基本設定
選定したOTAへの登録申請と基本情報入力を行い、利用規約と手数料体系を詳細に確認します。支払い条件やキャンセルポリシーは収益に直結するため、自施設の運営方針と整合性を取りながら慎重に設定します。
連絡先情報や通知設定を最適化し、予約やキャンセルの際に迅速な対応ができる体制を整えます。また、決済方法や税金処理についても事前に確認し、運用開始後のトラブルを防止するための準備を怠らず進めることが重要です。
魅力的な施設ページ作成
高品質な施設・客室写真を10〜20枚準備し、魅力的なビジュアル訴求を行います。また、施設の差別化ポイントを強調した説明文を作成し、設備・アメニティ情報を詳細に入力することも効果的です。
加えて、周辺観光情報やアクセス情報を充実させると、ユーザーが旅行計画を立てやすくなります。施設の独自性や地域の魅力を効果的に伝えるのも他施設との差別化になるため、おすすめです。
料金・在庫管理の設定
続いて、季節・繁閑期・曜日に応じた戦略的な基本料金設定を行い、市場動向と競合状況を踏まえた適切な価格戦略を構築します。
早割・直前割・連泊割など特別プランを戦略的に設計し、収益の最大化を狙いましょう。在庫連携方法を見直し、オーバーブッキング防止と販売機会最大化のバランスを取りましょう。手動での管理が難しいのであれば、多少収益性が下がったとしてもシステムを組み込んだ方が、人件費などを削減できます。
運用開始
実際の運用開始後は、予約状況のモニタリングと分析を継続的に行い、データに基づいた改善施策を実施します。競合施設との料金比較や評価分析を定期的に行い、市場での立ち位置を把握しましょう。
特に、口コミには迅速で丁寧な返信を行うことで、顧客満足度向上と信頼性構築につながり、新たな予約獲得につながります。収集したデータを活用してプラン内容や料金設定を継続的に改善し、PDCAサイクルを回しながら戦略的な運用を継続することで、OTAを活用した安定的な収益向上を実現できるはずです。
まとめ

OTA導入は現代の宿泊業界において必須の集客戦略となっており、初期費用ゼロで強力な集客力を獲得できる魅力的な販路です。国内外の主要OTAサービスをそれぞれの特徴に応じて戦略的に活用することで、従来では到達困難だった幅広い顧客層へのアプローチが可能になります。
ただし、手数料負担や価格競争リスク、ブランド構築の困難さなど注意すべき点もあります。成功のカギは、自施設の分析から始まる戦略的な導入プロセスと、継続的な運用改善にあります。料金設定・在庫管理・顧客対応を適切に行い、データを活用した科学的なアプローチにより、OTAを効果的な収益向上ツールとして活用していくことが重要です。
Dot Homesでは、宿泊施設の自社集客力強化をサポートしています。OTA依存からの脱却と持続可能な経営基盤構築をお手伝いし、将来にわたって安定した収益を確保できる体制づくりを支援いたします。
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