宿泊業界のデジタル化が加速する中、OTA(オンライン旅行代理店)マーケティングは施設運営において欠かせない戦略となっています。じゃらんや楽天トラベル、Booking.comなどのプラットフォームを効果的に活用することで、これまでリーチできなかった顧客層へのアプローチが可能になります。
一方で、手数料負担や価格競争の激化、顧客データの制限といった課題も存在し、多くの宿泊施設が最適な運用方法を模索しているのが現状です。
本記事では、OTAマーケティングの基本から最新動向、さらにはSNSとの連携による統合マーケティング戦略まで、実践的なノウハウを包括的に解説します。
OTAとは?宿泊施設の経営に欠かせないプラットフォーム

OTAは「Online Travel Agency」の略で、宿泊予約を仲介するオンラインプラットフォームです。じゃらん、楽天トラベル、Booking.comなどが代表的な存在として知られており、現代の宿泊業界において不可欠なインフラとなっています。
宿泊施設側は在庫と料金を提供し、予約が入ると10〜16%程度の手数料を支払う仕組みとなっています。
- じゃらんnet:1名利用8.0%、2名以上10.0%
- 楽天トラベル:1名利用8.0%、2名以上9.25%
- Booking.com:12.0%(オンライン決済含む)
これらのプラットフォームは検索機能、比較検討、口コミ評価などを通じて旅行者の意思決定をサポートする重要な役割を担っています。特に、モバイルファーストの時代において、瞬時に宿泊施設を比較検討できる利便性は、消費者にとって不可欠なものとなっています。
OTAマーケティングの主なメリット

OTAを活用することで得られる具体的なメリットを理解することは、効果的な運用戦略を立てる上で重要です。集客力の向上と国際的な露出拡大という2つの大きな利点について詳しく見ていきましょう。
集客力が高い
OTAの最大の魅力は、その巨大なユーザー基盤にあります。宿泊施設が単独では到達できない幅広い顧客層へのリーチが可能。特に新規顧客の開拓において大きな効果を発揮します。
検索上位表示を目指すことで、これまでアプローチできなかった潜在顧客層を取り込むことができます。また、宿泊プラン比較機能によって施設の強みや特色をアピールする機会も増加します。
実際に、多くの消費者がOTAを起点として宿泊施設選びを始めており、この流れを活用することで効率的な集客が実現できるでしょう。
国内外からの予約獲得につながる
多言語対応により、インバウンド需要の取り込みが容易になり、国際的な露出が可能となります。
日本政府観光局によれば、2025年4月の訪日外国人数は3,908,900人となっています。
こちらの数値は、前年同月比では28.5%増。過去最高であった2025年1月の3,781,629人を上回り、単月過去最高を記録しました。
このデータから、外国人を顧客にできればより収益を高められるため、海外に向けて情報を発信する必要があります。
そこでOTAを活用すれば、自前で海外向け広告展開を行うよりも効率的に集客できます。特に小規模施設には大きなメリットをもたらすでしょう。
OTAマーケティングのデメリットと課題

多くのメリットがある一方で、OTA活用には避けて通れない課題も存在します。手数料負担、価格競争、データ制限といった問題点を正しく把握し、対策を講じることが持続可能な運営には不可欠です。
高額な手数料負担と価格競争の激化
予約成立時に10〜16%程度の手数料がOTAに支払われるため、利益率が圧迫される現実があります。クーポン手数料やボーナスプログラムなどの追加手数料も発生する可能性があり、実際の負担はより大きくなる場合があります。
競合施設との比較が容易なため、差別化が難しく値下げ競争に陥りやすい環境が形成されています。また、レート・パリティ(価格均一)ポリシーにより、OTAより安い価格での直販が制限されることも、経営の自由度を制約する要因となっています。
分析できるデータに制限がある
顧客の詳細情報やコンタクト方法の直接取得が限定されるため、リピート獲得が困難という課題があります。予約者はOTAに対するロイヤリティが高まりがちで、施設への直接的な信頼性が生まれにくい構造となっています。
さらに、OTAのフォーマットに従う必要があるため、施設独自の魅力や個性を十分に伝えることに制約が生じます。
この結果、施設のブランド価値を向上させたい、長期的な顧客を囲い込みたいというニーズにおいて、課題を抱えることになります。
宿泊業界におけるOTAの最新動向

AIによるパーソナライズ機能の強化が進んでおり、施設側もこれに対応する戦略の必要性が高まっています。顧客の過去の行動データや嗜好に基づいた個別対応が求められる時代です。
具体的には、スマートフォンを利用した即時予約の重要性が増しており、スムーズな予約導線の確保が必須となっています。また、サステナビリティへの関心の高まりを受けて、環境に配慮した施設や取り組みも評価される時代です。
これらの要素をOTA上でアピールすることで、競争力向上につながります。
効果的なOTAマーケティング戦略

メリット・課題・最新動向を理解した上で、実際にOTAを効果的に活用するための具体的な戦略について解説します。
プラン設計、情報最適化、口コミ管理という3つの重要な要素を中心に、実践的なアプローチ方法をお伝えします。
ターゲット顧客を明確にした効果的なプラン設計
ターゲット層の旅行目的、滞在日数、予算に合わせた複数のプランを用意することで予約率の向上が期待できます。
日本旅館協会の調査によると、1〜2名の宿泊客の割合が全体で58.8%を占めています。そのため、この層に適したプラン設計が重要です。
参照:3分間アンケート「自社HP直予約促進対策の状況調査」報告
具体的には、季節やイベント、平日・休日の需要変動を踏まえた柔軟な料金設定が収益最大化のカギとなります。
直前割引や連泊割引などの特典付きプランは、空室対策と顧客満足度向上の両面で効果的な手法として活用できます。
OTAでの集客を最大化する施設情報・写真の最適化
プロによる高品質な写真撮影は投資効果が高く、部屋タイプ、館内施設、周辺観光地を網羅的に撮影すべきです。
視覚的な魅力は予約決定において極めて重要な要素となっており、競合との差別化を図る上で欠かせません。
たとえば、露天風呂や地域周辺のスポットを紹介するなど、施設の強みやユニークな特徴を簡潔に伝えることが予約率向上に直結します。
口コミ管理と評価向上のための実践的アプローチ
すべての口コミに対して48時間以内の丁寧な返信を心がけることが、評価向上と新規予約増加に効果的です。
迅速な対応は顧客重視の姿勢を示すとともに、宿泊を検討している方に対して信頼感を与えることにもつながります。
また、ネガティブな口コミには謝罪と改善策を示し、透明性を持って誠実に対応することが重要です。
宿泊中のサービス向上と、チェックアウト時の適切なフォローが良い口コミ獲得につながり、長期的な評価向上を実現できます。
OTAだけでなくSNS戦略を活用した運用方法

ここまでOTAの魅力、戦略について紹介してきましたが、OTA単体での運用には限界があります。
自社サイトやSNSとの連携により、より効果的で持続可能なマーケティング戦略を構築するなど、ほかにも効果的な方法は複数存在します。
ここでは、SNS戦略を活用して利用者を増やす方法について考えましょう。
OTAと自社サイト予約の最適なバランス
自社サイト予約は手数料削減につながり、30%以上の直接予約比率が理想的な目標値とされています。
日本旅館協会の調査では「自社HP直予約」の構成比が30%以上の施設では、全ての施設で「ベストレート保証」を採用しています。
参照:3分間アンケート「自社HP直予約促進対策の状況調査」報告
そのため、OTAからの予約者に対して、次回は直接予約を促す特典や会員制度の案内が効果的です。
予約管理システム(PMS)の導入により、OTAと自社サイトの在庫・料金の一元管理が可能になり、運営効率の向上と機会損失の防止を同時に実現できます。
SNSを活用した宿泊施設のブランディング戦略
Instagramでは宿泊施設の魅力的な写真・動画を定期投稿し、ハッシュタグを効果的に活用することが重要です。
実際の宿泊者によるユーザー投稿のリポスト活用と、インフルエンサー招待による認知拡大も効果的な手法です。
施設の個性を活かしたストーリー性のあるコンテンツがフォロワー獲得と予約増加につながり、長期的なブランド価値向上を実現できます。
OTA、SNS、自社サイトを連携させた統合マーケティング
OTAでの露出、SNSでのブランド体験、自社サイトでの予約という顧客導線の設計が理想的です。この流れにより、各チャネルの特性を活かしながら、最終的には手数料のかからない直接予約へと誘導することが可能になります。
各チャネルで収集したデータを分析し、顧客嗜好に合わせたパーソナライズ対応を実現することで、顧客満足度の向上と収益最大化を同時に達成できます。
チャネル間で一貫したブランドメッセージとビジュアルを使用し、信頼性と認知度の向上を図ることが重要です。
まとめ

OTAマーケティングは宿泊施設の集客において重要な戦略である一方、手数料負担や価格競争といった課題も存在します。持続可能な成長を実現するためには、OTAに依存しすぎず、SNSを活用した自社サイトへの集客強化が不可欠です。
本記事で解説したInstagramを中心としたSNS戦略や統合マーケティングを実践することで、手数料のかからない直接予約の比率向上が期待できます。しかし、効果的なSNS運用には専門的な知識と継続的な取り組みが必要です。
自社サイトの集客を本格的に強化したい宿泊施設の皆様には、SNS戦略による集客支援サービスをご活用いただき、OTA依存からの脱却と収益最大化を実現していただければと思います。