宿泊施設の経営において、集客は最も重要な課題の1つです。近年、じゃらんや楽天トラベルなどのOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の存在感が高まっています。一方で、従来の旅行会社との連携も重要です。
しかし、それぞれの特性や活用方法を正しく理解している施設運営者は意外と少ないのが現状です。手数料負担や集客効果、運用面での違いを把握せずに漫然と利用していては、本来得られるはずの効果を十分に享受できません。
本記事では、OTAと旅行会社の基本的な仕組みから具体的な活用戦略まで、宿泊施設の経営者が知っておくべきポイントを詳しく解説します。また、これらのチャネルに依存しすぎることなく、自社独自の集客力を強化する方法についても触れていきます。
持続可能な経営基盤を構築し、安定した収益を確保するための戦略的なアプローチを、ぜひ参考にしてください。
OTA(オンライン・トラベル・エージェント)とは

OTAとは「Online Travel Agent」の略称で、じゃらん、楽天トラベル、Booking.comなどインターネット上のみで取引を行う旅行代理店を指します。実店舗を持たずオンラインで24時間の予約受付が可能で、利用者は複数施設を簡単に比較検討できる点が大きな特徴です。
宿泊施設はコミッション(手数料)を支払う成果報酬型のビジネスモデルとなっており、予約が成立した場合のみ費用が発生するため、リスクを抑えた集客が可能となっています。
OTAと旅行会社の違い

同じ旅行業界でも、旅行会社とOTAには根本的な違いがあります。この違いを理解することで、より効果的な販売戦略を立てることができるでしょう。
ビジネスモデルの違い
OTAは在庫を持たないプラットフォームビジネスとして機能し、宿泊施設と利用者をマッチングする役割を担っています。
一方、旅行会社は企画・造成も行うサービス業として、パッケージツアーなどの商品開発から販売まで一貫して手がけています。
OTAと旅行会社の違いを以下のとおり、表にまとめました。
項目 | OTA | 旅行会社 |
事業形態 | 在庫を持たないプラットフォームビジネス | 企画・造成も行うサービス業 |
主な投資先 | システム投資中心 | 人的リソース中心 |
収益構造 | 手数料8〜15%が一般的 | 商品によって異なる収益構造 |
役割 | マッチング・仲介 | 商品開発から販売まで一貫 |
投資の観点では、OTAはシステム投資が中心となり、旅行会社は人的リソースへの投資が重要です。
また、OTAの手数料は8〜15%が一般的ですが、旅行会社は商品によって手数料が大きく異なります。
顧客対応の違い
顧客対応においても、両社の役割は大きく異なります。OTAは基本的に宿泊施設と利用者を繋ぐプラットフォームの役割であり、トラブルが発生した場合には宿泊施設側が対応する必要があります。
一方、旅行会社は予約から滞在、アフターフォローまで一貫したサポートを提供しており、またトラブルにも対応してくれることが多いです。
緊急時やクレーム発生時の対応責任の所在も明確に異なるため、宿泊施設としてはこの違いを理解したうえで適切な体制を整える必要があります。
宿泊施設がOTAを活用するメリット

OTAの活用は、宿泊施設にとって多くのメリットをもたらします。特に集客力強化とコスト効率の向上は、経営に直接的なプラスの影響を与えるでしょう。
ここでは、宿泊施設がOTAを活用するメリットを3つ紹介します。
新規顧客獲得につながる
OTAの最大のメリットは、国内外の幅広い顧客層へのリーチが可能になることです。自社の営業力だけでは獲得が困難な層への訴求効果が期待でき、特に新規施設やリブランド時の認知拡大にもつながります。
また、多言語対応や海外市場への展開も、OTAのインフラを活用することで比較的容易に実現できるため、インバウンド需要の取り込みにも効果的です。
コスト効率が良い
OTAは成約時のみ手数料が発生する成果報酬型のため、広告出稿と比べて低リスクでの集客が可能です。予約管理システムなど運営効率化ツールが提供されるため、業務の自動化による人件費削減効果も期待できます。
また、営業時間外でも自動で予約受付ができるため、機会損失を最小限に抑えることが可能。初期投資を抑えながら集客力を向上させたい施設にとって、OTAは非常にコスト効率の良い選択肢といえるでしょう。
キャンペーンを活用できる
OTA側が実施する大型キャンペーンへ参加すると、自社では難しい大規模なプロモーション効果を発揮できる場合があります。
システム上位表示によるプロモーション機会や、季節イベントと連動した特集枠での露出により、通常では届かない層への認知拡大が可能です。特に、ゴールデンウィークや夏休みなどの繁忙期には、OTAの集客力を最大限活用することで、稼働率の大幅な向上が期待できます。
マーケティング予算が限られる施設にとって、これらのキャンペーンは貴重な露出機会となるはずです。
宿泊施設がOTAを活用するデメリット

OTAには多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。長期的な経営の視点から、これらの課題を理解しておくことが重要です。
ここでは、主なデメリットを3つ紹介します。
収益性が低くなりがち
OTAでは予約が増えるほど手数料負担も増加します。そのため売上は伸びても利益率が低下するリスクがあります。
特に問題となるのは、リピーター客もOTA経由で予約を取るケースです。この場合、本来なら手数料不要で獲得できた顧客にも手数料を支払うことになり、長期的なコスト増加につながります。また、価格競争に巻き込まれやすく、客単価低下のリスクも抱えています。
手数料を考慮した価格設定を行うと他施設との競争力が低下し、逆に価格を下げると収益性が悪化するという、ジレンマに陥る可能性があります。
施設独自の価値訴求が難しい
OTAでは画一的なフォーマットで情報を掲載するため、施設独自の魅力や差別化要素が埋もれてしまいがちです。価格がメインの比較軸になりやすく、サービスの質や施設の個性といった付加価値を十分に伝えることが困難です。
また、施設のブランディングがOTAブランドに隠れてしまい、顧客の記憶に残りにくいという課題もあります。
情報不足になりがち
レートパリティ制約により、OTAと自社サイトで同一料金を維持する必要があるため、柔軟な価格設定が困難になります。口コミや評価に対する施設側の影響力は限定的で、ネガティブな評価への対応に制約があることにも注意が必要でしょう。
さらに、OTA側の方針変更やアルゴリズム調整に左右される不安定さもあり、突然の表示順位低下や手数料変更といったリスクを常に抱えています。自社でコントロールできない要素が多いため、経営の安定性に影響を与える可能性があります。
旅行会社と連携するメリット

一方、旅行会社と連携することで、OTAとは異なる独自のメリットを得られます。特に安定性と専門性の面で、施設経営に大きな価値を提供してくれるでしょう。
ここでは、主なメリットを3つ紹介します。
専門市場へのアクセスが可能
旅行会社との連携により、法人需要や団体客など特定セグメントへの効果的なアプローチが可能になります。インセンティブツアーや企業研修などの高単価案件の獲得機会が増え、収益性の向上が期待できるでしょう。また、地域限定の商品造成による差別化により、他施設との価格競争から脱却できる可能性があります。
旅行会社の専門知識と営業力を活用することで、個人では開拓困難な市場への参入が実現し、新たな収益源の確保につながります。
安定した送客が期待できる
年間契約による安定した部屋確保は、経営計画の策定において大きな安心材料となります。特にシーズンオフの稼働率維持につながるため、年間を通じた安定収益の確保が可能です。
また、旅行会社との信頼関係が深まることで、新たなビジネス機会の創出や、より有利な条件での契約更新も期待できます。
ブランド価値向上につながる
大手旅行会社との提携は、施設の信頼性向上に大きく寄与します。旅行会社のブランド力を活用した認知拡大により、個人客への訴求力も向上します。また、旅行会社の品質基準を満たすことで、サービスレベルの客観的な評価向上が図れるでしょう。
これらの効果により、施設全体のブランド価値が向上し、将来的な直接予約の増加や、より高単価な顧客層の獲得にもつながる可能性があります。
旅行会社との連携におけるデメリット

旅行会社との連携にもデメリットが存在します。特に運用面での負担増加は、施設運営に直接的な影響を与える可能性があるため注意が必要です。
ここでは、旅行会社と連携することの主なデメリットを3つ紹介します。
価格設定の制約がある
販売価格に対する旅行会社からの交渉や値引き要請への対応が必要になり、想定していた収益を確保できない場合があります。早期割引やセール時には利益率の低下が避けられず、契約時の料金設定から変更が難しい硬直性も課題です。
市場状況の変化に応じた柔軟な価格調整が困難になるため、競争力の維持や収益最大化の観点で制約を受ける可能性があります。事前の契約条件の精査と、将来的なリスクを考慮した価格設定が重要です。
運用負担が増加する
個別の契約管理や担当者対応には相応の手間がかかり、特に複数の旅行会社と連携する場合は管理業務が複雑化します。システム連携が不十分な場合、手作業によるオペレーション負荷が増大し、ミスのリスクも高まります。
また、団体客受入時には特別対応が必要になるケースが多く、通常業務への影響も考慮しなければなりません。人的リソースが限られる施設にとって、これらの運用負担は経営効率に大きな影響を与える可能性があるでしょう。
依存リスクがある
特定の旅行会社に過度に依存した場合、契約条件の交渉において立場が弱くなるリスクがあります。旅行会社の業績変動や方針変更の影響を受けやすく、突然の契約見直しによって「利益が大幅に落ちた」というケースも少なくありません。
リスク分散の観点から、複数の販売チャネルを確保し、特定の旅行会社への依存度を適切にコントロールすることが重要です。
OTAと旅行会社を効果的に活用するための戦略

OTAと旅行会社を効果的に活用するには、戦略的なアプローチが必要です。それぞれの特性を理解し、施設の状況に応じた最適な組み合わせを見つけることが成功の鍵となります。
最適なチャネルを選択する
各チャネルの特性を理解したうえで、適切な在庫配分を行うことが重要です。OTA、旅行会社、自社予約の最適なバランスを設定することで、収益性を最大化させつつ、リスクを低減できます。
また、季節や需要動向に応じた柔軟なチャネル戦略の見直しを定期的に行い、市場環境の変化に迅速に対応することも心がけましょう。
差別化プランを考える
OTA向け、旅行会社向け、直販向けで異なる付加価値を設計することで、チャネル間の競合を避けながら各々の特性を活かすことができます。同一料金でも内容に差を付けることで直販への誘導を図り、長期的な収益性向上を目指します。
旅行会社との協働による独自の体験価値を創出することで、他施設との差別化を図ると同時に、より高い顧客満足度を実現できます。創意工夫により、限られた資源を最大限に活用した戦略的なプラン設計が可能になります。
アンケートなどを活用して顧客データを収集する
OTAから獲得した顧客を直接リピーターに転換するための仕組み構築も重要です。旅行会社経由の団体客からも個人リピーターを獲得し、長期的な顧客価値の最大化を図ることが必要不可欠です。
アンケートやフィードバックを活用し、指摘があった内容の改善を進めることで、顧客満足度向上と同時に、将来的な直接予約増加につながる基盤を構築できます。
OTAや旅行会社だけに頼らない集客方法

持続可能な経営のためには、OTAや旅行会社への依存度を下げ、自社独自の集客力を強化することが重要です。デジタル時代の特性を活かした多角的なアプローチが効果的でしょう。
ここでは、OTAや旅行会社だけに頼らない集客方法を2つ紹介します。
自社サイトの予約機能を強化する
ユーザーが使いやすい予約システムを導入することにより、顧客の「利便性向上」と「直接予約の増加」を同時に実現できます。OTAより魅力的な直接予約の特典を設計することで、手数料削減と顧客満足度向上の両立が可能です。
また、近年はパソコンよりもスマートフォンでWebサイトを閲覧するユーザが全体の70%~80%を占めている傾向があります。そのため、スマートフォンでの予約プロセスを最適化して、予約完了率の向上を図るのが理想です。投資対効果の高い改善施策に取り組むと、長期的な収益性向上につながることでしょう。
SNSを活用する
施設の魅力を直接伝えるSNSアカウントの運用により、価格では伝えられない体験価値をビジュアルで訴求できます。特にZ世代の67.55%がSNSで旅行先を決定する傾向があることから、若年層の取り込みには欠かせない施策です。
参照:【MERY Z世代研究所 お出かけ調査】Z世代女性が旅先を決めるときに参考にする情報源。2位の「旅行サイト」を超える1位は?
日常的な情報発信により施設の人格化を図り、顧客との感情的なつながりを構築することで、リピート率向上と口コミ拡散効果が期待できます。コストを抑えながら効果的なブランディングが可能なSNSは、現代の集客戦略において重要な位置を占めています。
まとめ

OTAと旅行会社はそれぞれ異なる特性を持つ販売チャネルとして、戦略的に活用することで宿泊施設の成長に大きく貢献します。短期的な集客効果だけでなく、長期的な顧客育成と直接関係構築の視点を持つことが、持続可能な経営基盤の構築につながります。
手数料負担を考慮しながらも、各チャネルの特性を最大限に活かし、自社独自の集客力強化を並行して進めることが成功の鍵となるでしょう。
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