近年、旅行業界におけるデジタル化の波は加速し続けています。その中でも特に重要な存在となっているのが「OTA(オンライン・トラベル・エージェント)」です。
スマートフォンが普及した現代では、旅行の計画から予約までをオンラインで完結させることが当たり前になりつつあります。
本記事では、ホテルや旅館の経営者・担当者に向けて、OTAの基礎知識からメリット・デメリット、効果的な活用方法までを詳しく解説します。
OTA(オンライン・トラベル・エージェント)とは

宿泊施設の予約方法は、この10年で大きく変化しました。かつては電話予約や旅行代理店が主流でしたが、現在はスマートフォン1つで世界中の宿泊施設を比較・予約できる時代に。簡単に予約できる便利さから、OTAは多くの旅行者に利用されるようになりました。
OTAとは「Online Travel Agent」の略称で、インターネット上でのみ営業を行う旅行代理店のことです。実店舗を持たず、ウェブサイトやアプリを通じて宿泊施設や航空券、ツアーなどの旅行商品を販売しています。
具体的には以下のようなサービスがOTAの代表です。
- 楽天トラベル
- じゃらん
従来の旅行代理店との最大の違いは、実店舗を持たないことと、24時間いつでも予約が可能な点にあります。店舗の運営コストがかからない分、効率的な運営が可能となり、消費者にとっても時間や場所を選ばずに旅行の計画・予約ができるメリットがあります。
ホテル・旅館業界におけるOTAの現状

宿泊業界において、OTAの存在感は年々拡大しています。「便利だから」「比較しやすいから」という理由で多くの旅行者に支持され、今や宿泊予約の主要チャネルとなりました。
一般社団法人日本旅館協会の「令和4年度営業状況等統計調査」によると、国内旅行者のOTA利用率は45.3%に達しています。これは旅行会社などの他の予約経路と比較して最も高い数値であり、OTAが宿泊予約の主要チャネルとなっていることを示しています。
参照:日本旅館協会
ホテル・旅館にとってのOTAのメリット

宿泊施設がOTAを活用することで、集客力を高められます。特に小規模施設や新規オープンしたばかりの宿にとって、OTAは集客の大きな武器となります。
費用対効果が高く、導入の敷居も低いため、多くの施設がOTAの活用が可能です。ここでは、宿泊施設がOTAを利用する際のメリットを3つの観点から解説します。
集客力が向上する
OTAの最大のメリットは、その圧倒的な集客力にあります。国内外に膨大なユーザー基盤を持つOTAに掲載することで、自社では到達困難な幅広い顧客層にアプローチできます。
特に小規模な宿泊施設や新規オープンしたばかりの施設にとって、OTAはブランド認知を高める絶好の機会となります。自社の広告費だけでは宣伝が難しい多くの潜在顧客に対して、施設の存在をアピール可能。
また、海外からの旅行者にリーチできる点も見逃せません。世界中の旅行者が利用するOTAに掲載することで、インバウンド需要を効率的に取り込めます。
導入が容易
導入のハードルが低いこともメリットの1つです。多くのOTAでは、掲載時の初期費用が不要で、成果報酬型のビジネスモデルを採用しています。つまり、予約が入らなければ費用は発生せず、固定費の負担なしで集客チャネルを増やせます。
また、各OTAが定期的に実施するキャンペーンに参加するチャンスもあります。「じゃらん」や「楽天トラベル」などの大手OTAが行う季節ごとの大型セールは、追加費用なしで効果的なプロモーションになり得ます。
初期投資のリスクが少ないため、様々なOTAを試しながら自社施設に最適な販売チャネルを見つけることも1つの方法です。
効率的な運用を目指しやすい
OTAを活用することで、予約管理の効率化も図れます。24時間365日予約受付が可能で、夜間や休日の問い合わせに対応する人員を配置する必要がなくなります。
また、キャンセルが発生した場合も、自動的に再販売されるため、空室のロスを最小限に抑えることが可能。多くのOTAは予約管理システムを提供しており、複数のOTAや自社サイトの予約状況を一元管理できるツールも充実しています。
これらの機能により、フロントスタッフの業務負担を軽減しながら、効率的な客室在庫管理が可能です。予約状況のリアルタイム把握やデータ分析による需要予測なども容易になり、収益管理の精度向上にも寄与します。
ホテル・旅館にとってのOTAのデメリット

OTAのメリットは多いものの、活用する際には注意すべき課題も存在します。特に収益性への影響や価格競争の激化は、多くの宿泊施設が直面している問題です。
ここでは、宿泊施設がOTAを利用する際に注意すべき3つのデメリットについて解説します。
収益性が低下する
OTAを利用する最大のデメリットは、高額な手数料が発生することです。一般的にOTAの手数料率は8%〜15%程度で、予約ごとに手数料が売上から差し引かれます。例えば、1万円の宿泊料金で15%の手数料が発生すると、実質的には8,500円の収入となります。
OTA経由の予約が増えるほど、この手数料負担も増加し、全体の利益率が低下する傾向にあります。特に利益率の低い宿泊施設にとって、この手数料負担は大きな課題でしょう。
さらに長期的な視点では、本来なら自社サイトやリピーターとして直接予約してくれる可能性のある顧客までもOTA経由になることで、継続的なコスト効率の低下を招く恐れがあります。
価格競争リスクがある
OTAのプラットフォーム上では、同ランクの宿泊施設との直接的な比較が容易に行われるため、価格競争に巻き込まれるリスクが高まります。多くの消費者は価格を主な選択基準とするため、競合施設との差別化が難しい場合、値下げ圧力が強まる傾向があります。
この価格競争の結果、本来の施設価値よりも安く販売せざるを得ない状況に陥ることもあります。特に繁忙期と閑散期の差が大きい地域では、閑散期の価格競争が激化しやすく、収益性がさらに悪化するケースも少なくありません。
また、一度下げた価格を元に戻すことは容易ではなく、長期的に価格のポジショニングが低下してしまう恐れがあります。
伝えられる情報に制限がある
OTAのプラットフォーム上では、掲載できる情報量や表現方法に制約があります。統一されたフォーマットの中で、施設の個性や特徴を十分に伝えきれないケースが多いのです。
このため、施設の本当の魅力や独自のサービス、おもてなしの質などが正確に伝わりにくく、差別化要素が価格のみに集約されがちです。また、限られた情報だけで判断した予約は、実際の滞在時に期待とのギャップを生む可能性があります。
予約のハードルが低いことは利点である一方、安易な予約が増えることで直前キャンセルの増加につながる危険性があります。
OTAにホテルを掲載するときのポイント

OTAに掲載するだけで予約が自動的に増えるわけではありません。多くの競合施設がひしめくOTA市場で成功するには、戦略的なアプローチが必要です。
効果的な写真の使い方、魅力的な説明文の書き方、競合との差別化戦略など、OTAでの集客を最大化するためのポイントを紹介します。細部までこだわることで、予約率の大幅アップを目指しましょう。
魅力的な施設紹介ページを作成する
OTAでの成功には、一目で旅行者の目を引く魅力的な施設紹介ページの作成が欠かせません。まず重要なのは、高品質な写真の掲載です。プロのカメラマンによる撮影や、最新の設備が分かりやすく映った写真など、視覚的に訴求力のある画像を揃えましょう。
また、施設の強みや特色が明確に伝わる説明文を心がけることも重要です。単なる施設情報だけでなく、どのような体験ができるか、どんな価値を提供できるのかを具体的に伝えることで、予約につながる可能性が高まります。
ターゲット層に響くキーワードを効果的に使用することも忘れてはいけません。例えば、若い女性をターゲットにするなら「インスタ映え」「フォトジェニック」、ビジネス客なら「Wi-Fi完備」「デスクワークに最適」など、顧客が検索しそうなキーワードを意識的に盛り込みましょう。
競合との差別化戦略を考える
OTA上で多くの宿泊施設の中から選ばれるためには、競合との明確な差別化が必要です。まずは競合施設のOTAページをリサーチし、どのような特徴をアピールしているのか、どんなプランを出しているのかを分析します。
その上で、自施設ならではの独自サービスや特典を目立つ形で訴求しましょう。例えば「地元食材を使った朝食」「源泉かけ流し温泉」「歴史的建造物のリノベーション」など、他では体験できない価値を強調します。
また、立地条件を活かした情報構成も有効です。「駅から徒歩5分」「人気観光スポットに近い」など、エリア内での自施設の強みを分かりやすく伝えることで、ライバルとの差別化を図りましょう。
明確な料金・プランを設定する
OTAでの予約促進には、適切な料金設定と魅力的なプラン展開が欠かせません。需要変動に応じた柔軟な料金設定(シーズン別・曜日別)を行うことで、稼働率と収益の最大化を図りましょう。
また、顧客ニーズに対応した多様なプラン展開も重要です。例えば、「素泊まり」「朝食付き」「2食付き」といった基本プランに加え、「記念日プラン」「ワーケーションプラン」など、特定のニーズに応えるプランも用意すると良いでしょう。
口コミに力を入れる
OTAにおいて、口コミは予約決定に大きな影響を与える要素です。良い口コミを増やすためには、何よりもサービス品質の管理が重要です。一貫したサービス提供と、期待を上回る体験の創出を心がけましょう。
ポジティブなレビューはもちろんですが、ネガティブレビューへの対応も見られています。批判的な口コミに対しては、迅速かつ丁寧に応答し、改善策を提示することで、むしろ誠実な施設というポジティブな印象を与えることができます。
OTAの多くは、高評価の施設を検索結果の上位に表示するアルゴリズムを採用しているため、口コミ対策は集客にも直結します。
OTAの特徴を理解しておく
各OTAには、それぞれ独自のアルゴリズムや特性があります。これらを理解し、それに合わせた掲載内容の最適化を図ることが重要です。例えば、「じゃらん」は国内旅行者向け、「Booking.com」は海外からの旅行者向けとターゲット層が異なります。
また、OTAが実施する特集やキャンペーンへの積極的な参加も効果的です。季節ごとのキャンペーンや特集ページは、通常よりも多くの露出が期待できるチャンスとなります。
新着情報や季節プランの定期的な更新も忘れてはいけません。多くのOTAでは、情報更新を頻繁に行っている施設が検索結果で優遇される傾向があります。季節に合わせた限定プランの提供や、イベント情報の更新などを定期的に行うなどの施策が有効です。
OTAに依存しすぎず集客するならSNS戦略が効果的

OTAは強力な集客ツールですが、依存しすぎることでコスト増や価格競争に巻き込まれるリスクもあります。そこで注目したいのが、SNSを活用した集客戦略です。特に若年層の旅行決定プロセスにおいて、SNSの影響力は急速に高まっています。
ここでは、OTAでは伝えきれない施設の魅力やストーリーをSNSで発信し、直接予約につなげる方法を解説します。
SNS戦略でOTA依存から離れる方法
近年、特に若年層の旅行情報収集におけるSNSの影響力が急速に高まっています。すでに触れたように、Z世代の約60%が旅行計画を立てる際にSNSを利用しており、これは単なるトレンドではなく、今後の主流となる消費行動と考えられます。
SNSの強みは、OTAでは伝えきれない施設の魅力やストーリーを深く発信できる点にあります。写真や動画、ストーリー機能を活用して、施設の雰囲気や周辺環境、季節ごとの魅力、スタッフの人柄など、多角的な情報発信が可能です。
こうした発信を通じて、「この宿に泊まりたい」という直接的な需要を創出することができます。SNSで施設の魅力に惹かれたユーザーが、OTAではなく直接予約するようになれば、手数料負担の軽減にもつながります。
各SNSプラットフォームの特性と活用法
効果的なSNS戦略を実施するには、各プラットフォームの特性を理解し、ターゲット層に合わせた活用法を考えることが重要です。
Instagramは主に10代〜20代の女性に人気があり、視覚的な魅力を発信するのに最適です。美しい客室の写真、料理の画像、周辺の観光スポットなど、見た目の美しさを追求したコンテンツが効果的です。ハッシュタグを適切に活用することで、潜在顧客への訴求力も高まります。
Twitterは幅広い年齢層に利用されており、リアルタイム情報や限定プラン告知に効果的です。空室情報や直前割引、地域のイベント情報など、即時性の高い情報発信に向いています。また、顧客との対話も生まれやすく、関係構築にも役立ちます。
YouTube/TikTokは動画コンテンツを通じて、より深い施設の魅力を伝えることができるプラットフォームです。施設の案内ツアー、料理の調理過程、周辺の観光スポット紹介など、動画ならではの臨場感のあるコンテンツで集客につなげましょう。年齢層に合わせた内容の差別化も重要です。
まとめ

デジタル時代の宿泊施設経営において、OTAは避けて通れない重要な存在です。その集客力とメリットを最大限に活かしながらも、デメリットを最小化する戦略が求められています。本記事で紹介したポイントを実践し、OTAでの予約獲得率を高めつつ、自社サイトやSNSを通じた直接予約も増やしていきましょう。
しかし、OTAに依存しすぎることなく、自社の直接予約チャネルやSNSを活用した独自の集客戦略も並行して強化することが、長期的な安定経営につながります。特にSNS戦略は、OTAでは伝えきれない施設の魅力やストーリーを発信し、直接的な需要創出に効果的です。
宿泊施設の魅力を最大限に引き出し、直接予約を促進するためには、魅力的な公式サイトの存在が不可欠です。
「Dot Homes」では、宿泊施設の支援を行っています。美しいデザインと使いやすい予約機能を兼ね備え、OTA依存からの脱却をサポートします。
SNS連携や多言語対応など、インバウンド集客にも強い運営を希望している方は、Dot Homes公式サイトからお気軽にご相談ください。