立教大学観光学部で開講される「ホテル運営論」では、さまざまなゲストスピーカーをお呼びして講義を展開しています。
今回はグランピングやリゾートホテルのプロデュース事業を展開しているDot Homesの代表取締役社長である留田紫雲さんのインタビューをお届けします。

ホテルのアルバイトから経営者へ。

–今では100施設ほどホテルの経営に携わっているかと思いますが、昔からホテル一筋なんでしょうか?

はじめてホテルで働いたのは高校生のアルバイトで。あるシティホテルの配膳をしてました。ある日、上司から「お前はガサツだからサービスに入るな」と言われ、そこからは結婚式の照明係に任命されましたが(笑)。大学生になる時に一度ホテル業界から離れるのですが、色々あってまたこの業界に戻り、今度はホテルを経営する立場になりました。

夢中になれることを探したインターン時代


–大学生時代から様々なインターンに参加し、その後学生起業に繋がったとのことですが、当時のことを教えていただけますか?

幼い頃からずっとサッカーを続けてきて、大学に進学してサッカー部に入りました。しかしその頃には、すでにプロサッカー選手を目指すような情熱を失っていて、1年生の夏に部活を辞めました。サッカー以外の“何か”を求めてサークルに入ったりなどいろいろと試しましたが、いつも没頭できない自分に葛藤していました。

そんな時ふと、まだ社会のことを何も知らない自分と向き合った時に「社会に出たら、40〜50年以上の社会人生活が待っているのに、大学を卒業して何も知らずに社会に出るような意思決定は怖いな」と思うようになりました。ここがインターンに参加し始めたきっかけです。

最初は営業系のインターンで1対1のアプローチについて経験し、次にサイバーエージェントのインターンでITの力を使って1対Nのアプローチについて経験できました。当時はキュレーションメディアが盛り上がっていたので、学生の自分でも仕事量が多く、意思決定も広い範囲でさせてもらえたので、記事コンテンツの執筆・校正・編集などほとんどこなしていました。

その後、インターンを続けながら海外留学して帰国した後に「最先端の技術に触れる環境に身を置きたい」と考え、技術系のベンチャーでインターンをしたのが三社目です。その後フリーランスから会社設立(起業)という流れで環境が変わっていくんですけど、常に“チャレンジする”ということを大切にしてきました。

学生起業


–インターンからフリーランス、そして会社設立とステージが変わっていった経緯を教えてもらえますか?

自分のできることも増えてきた中で、自然とフリーランスの選択肢を思い浮かべるようになりました。しかし、それまでのインターンが自分にとって“自分1人ではできないチャレンジをさせてくれる環境“であったことが大きかったと思います。

インターンという立場で会社に所属したことで、到底自分では背負うことのできない大きな責任のある仕事にチャレンジさせてもらえました。そのおかげもあって、できる仕事も増えて「自分で仕事する(フリーランス)のもアリかも」と自然と思えたと思います。

フリーランスとしていろいろと仕事を受けていくなかで、不動産系のメディアを立ち上げる仕事をしました。

当時の不動産業界のシステムや慣習は日本に住む外国人にとってすごく不便なものでした。原因は、「保証人が必要であること」「不動産業者とのコミュニケーションがとりづらいこと」さらに外国人にとっての賃貸物件とは、「短期契約のニーズの方が高いこと」などです。

そういった不便にビジネスチャンスがあると考え、外国人向けの賃貸不動産ポータルサイトを立ち上げました。さらに接客や契約まわりでも外国人対応できるように整えました。

そのときに、不動産業界のようなレガシー産業の領域でITを駆使する面白さを感じたことが今の事業につながっていると言えます。

あと、会社設立に至った動機は親の一言でした。

「そのまま稼ぎ続けたら、扶養から外れるよ?」

と言われて困っていたところ、相談した先輩から「法人を作って、そこにお金を貯めるようにしたら?」と言われそのまま会社設立…というちょっと笑い話のような経緯です。笑

気付かされた、地方の価値


-レガシー産業×ITというのはとても興味深いです。当時の事業から、現在のグランピングやリゾートホテルのプロデュースに至るまでは、印象的な出来事などありますか?

外国人向けに不動産を扱っているうちに、2014年ごろから外国人向けの短期滞在ニーズに向けたサービスを展開することになりました。ちょうどAirbnbの名前を日本で聞くようになったころです。

短期滞在や宿泊というのは、みなさんAirbnbやじゃらん、楽天トラベルなどを利用するように、予約データのほとんどがWEB上で取引されます。創業当時からこの予約データを追いかける分析システムや、バラバラに点在する施設を管理するための管理システムをしていました。

2017年ごろにもなると「民泊」という言葉で世間は賑わうようになりました。新たに施設を増やそうと営業にまわっても、なかなか受け入れてもらえず、一時期は賃貸マンションなどの不動産の中でも事故物件を所有しているビルオーナーに、民泊施設の提案をしていたほどです。

この頃から「このビジネスってものすごく不動産の立地や建物のグレードなどに依存してるな」と思うようになりました。結局一等地にある良い物件を選んでビジネスしなきゃいけないようなイメージです。

そんな時ふと、「日本で一番、一施設あたりの平均売上が高いのってどのエリアだろう?」と不思議に思い、分析システムで調べました。

すると、3位は銀座、2位は渋谷で、1位はなんと富士山・河口湖エリアでした。それをきっかけに、いざ富士山・河口湖エリアに訪れてみると駅は人でいっぱい。5分ごとに発車するバスも予約が取れなくて、その内の9割が外国人でした。
その時、「地方でもビジネスになるじゃん」と思いました。

この経験から、都心の一等地に縛られた民泊ビジネスではなくて、「地方に展開し、その土地の魅力を生かした施設を作る。」という考えにシフトし始めました。

2018年に河口湖に別荘を、2019年にゲストハウスを開業しました。地方の観光課題の1つに夜に楽しめるコンテンツが少ないことがあり、バーを施設に併設させたことで、多くのお客様に楽しんでもらうことができました。

好きなことじゃないと続けられない


-地方の魅力に気づいたところから、今のグランピングやリゾートホテルのプロデュース事業にたどり着いた経緯もお聞かせ頂けますか?

改めて地方の価値や魅力を考え直した時に、外国人は「日本らしいところ」を求めているなと思いました。そして日本らしいところのひとつとして豊かな自然があります。自然を楽しめる施設を作ろうと思ったのが2018年ごろです。

元々僕はキャンプが大好きで、その魅力はDNAに刻まれている自然に還るような感覚だと思います。たくさんの友人をキャンプに連れていきました。しかし多くの人がキャンプの準備(機材の購入や準備、片付け)などが苦手なので、手ぶらで自然を楽しめるような施設を…と考えたのが今の事業に繋がったきっかけです。

ITやビッグデータ解析などの自分の得意なところを観光業界というレガシー産業で活かしたいというのもありましたが、やはり「旅行が好き」「キャンプが好き」というように、好きなことだから没頭できる、続けられると思ったんです。

キャンプは本当に良いです。普段関係がある人たちとも、改めて関係性を向き合ったり、絆を深めあったりできる時間が自然の中にはたくさんあると思います。

Dot Homesではそんな貴重な「時間」を届けるために、グランピング施設の開発もハードだけでなくソフトについてもすごくこだわっています。富士山の施設では「Time is Wonder」というコンセプトを掲げて、お客様の過ごす時間をいかにSlow&Easy にしていくかをこだわり続けています。結果として、日本絶景サウナランキング2位や、ドラマのロケ地に採択いただいたりしました。

これからの観光業界


-これからの観光業界について留田さんのお考えをお聞かせいただけますか?

若手にとってとにかく面白いタイミングだと思います。

僕はインバウンドで日本中が賑わっていたコロナ以前よりもう少し前の2015年から観光業界にいるので、短期間で酸いも甘いも経験できたように思います。コロナ以前はデジタルの活用を始め、新しいモノ、正しいモノを取り入れるという風潮が観光業界にあまり無かったと思います。「そんなことやらなくても儲かるよね」みたいな。

しかし、観光業界全てが一度止まったことによって今は「何かを変えていかなくては」と、新しい何かを模索し始めたような業界の雰囲気を感じます。

僕のような若手の話に大手企業がこぞって話を聞いてくれたり、外資系ホテルの責任者クラスがDot Homesに転職してくるなど、数年前は考えられなかったような事が増えています。

伝統的な業界ですが、今は「導いてくれる人や企業」を求めてるんじゃないでしょうか。元々年功序列の強い観光業界が、今は若手にとってものすごくチャンスのタイミングでもあると思います。

28歳の自分から見る“今の学生”


-最後に最近の学生について印象を聞きたいです。

ものすごく優秀です。

Dot Homesでも大学生のインターンがいますが、中にはマネージャーとして社会人をまとめる側の人もいます。今の時代、調べたら何でもでてくるので、疑問に思ったことをその場で解決する思考の癖(学習癖)をつけていれば、すぐに企業でも活躍できると思います。年齢や経験は関係ありません。

正しい手法は常に変化します。大人になればなるほど、経験が仇になることも多いですし、先述の通り観光業界は、若手にとってチャンスのタイミングなので大学生もどんどんチャレンジしてほしいですね。