「予約が入らない」

「価格競争に巻き込まれている」

「若い世代に響かない」

このような悩みを抱えている地方旅館の経営者や支配人の方は少なくありません。観光需要の変化や大手チェーンとの競争激化により、従来の経営手法だけでは生き残りが難しくなっています。

しかし、適切なブランディング戦略を実践することで、価格競争に巻き込まれず、お客様から選ばれ続ける旅館に生まれ変わることは可能です。

本記事では、地方旅館が直面する現状を整理したうえで、実践的なブランディング手法を具体的に解説します。自館の強みを活かした戦略設計から、具体的な施策まで、明日から取り組める内容をまとめました。

地方旅館の再生と持続的な成長を目指している方は、ぜひ参考にしてください。

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地方旅館を取り巻く現状とブランディングの必要性

地方旅館の経営環境は、この10年で大きく変化したといえます。まずは現状を正確に把握し、なぜブランディングが必要なのかを理解しましょう。

地方旅館が直面する3つの課題

地方旅館が抱える課題は、大きく分けて以下の3つです。

第一に、国内旅行需要の構造変化があります。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、国内宿泊旅行の延べ宿泊者数は横ばいが続いており、パイ自体が拡大していない状況です。

参照:宿泊旅行統計調査

さらに、若年層を中心に「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが進み、単なる宿泊ではなく体験価値を求める傾向が強まっています。

第二に、競合の増加と多様化です。大手ホテルチェーンの地方進出に加え、民泊やグランピング施設など新しいスタイルの宿泊施設が次々と登場しています。OTA(オンライン旅行代理店)での価格競争も激しく、差別化が難しくなっているのが現状です。

第三に、人材確保と育成の困難さがあります。地方の労働市場では若年層の流出が続き、サービス業を支える人材の採用が年々難しくなっています。また、採用できたとしても、旅館業特有のスキルを身につけた人材を育成するには時間とコストがかかります。

なぜ今、地方旅館にブランディングが求められているのか

これらの課題に対処するためには、従来の「立地」や「施設」といった物理的な強みだけでは不十分です。お客様が旅館を選ぶ基準が変化しているからです。

現代の旅行者は、単に「泊まる場所」を探しているのではありません。その土地ならではの体験、その宿でしか味わえない価値、自分の価値観に合った時間の過ごし方を求めています。

つまり、価格や設備のスペックで比較されるのではなく、「この旅館でなければならない理由」を明確に伝えることが重要になっているのです。これこそがブランディングの本質です。

「集客」ではなく「選ばれる理由」を作る時代へ

従来の集客施策は「より多くの人に知ってもらう」ことに重点が置かれていました。しかし、情報過多の現代では、ただ露出を増やすだけでは効果が出にくくなっています。

ブランディングは「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを明確にし、特定のお客様から強く支持される状態を作ることです。結果として、価格競争に巻き込まれず、リピーターやファンを獲得できるようになります。

また、明確なブランドを持つことで、スタッフの働く意義や誇りも生まれ、人材採用や育成にもプラスの影響を与えます。ブランディングは外向けだけでなく、内向けの効果も大きいのです。

ブランディング戦略を立てるための基礎設計

効果的なブランディングを実現するためには、まず自館の現状を整理し、方向性を明確にする必要があります。ここでは、戦略の土台となる4つのステップを解説します。

自館の「強み」と「地域資源」を明確化する

ブランディングの第一歩は、自館が持つ独自の価値を見つけることです。以下の視点で棚卸しを行いましょう。

まず、施設・サービス面での強みです。建物の歴史や建築様式、温泉の泉質、料理のこだわり、接客スタイルなど、他館と比較して優位性がある要素を洗い出します。

次に、地域資源との結びつきです。旅館の価値は、その土地の自然・文化・歴史と切り離せません。周辺の観光資源、地元の食材や工芸品、季節ごとの風景や行事など、地域ならではの魅力を整理しましょう。

さらに、これまでの実績やお客様の声も重要な手がかりです。リピーターが多い理由、高評価レビューで共通するキーワード、お客様から感謝された具体的なエピソードなどを集めることで、自館の本当の強みが見えてきます。

これらを総合的に分析し、「自館にしかない価値」を言語化することが重要です。

ターゲット(顧客像)を定義し、ニーズを把握する

次に、「誰に選ばれたいのか」を明確にします。すべての人に好かれようとすると、結果的に誰にも響かないブランドになってしまいます。

ターゲット設定では、以下の項目を具体的に設定しましょう。

項目内容設定例
年齢・性別主要なターゲット層30-40代女性、シニア夫婦など
ライフスタイル価値観や趣味嗜好健康志向、文化的体験重視、家族時間を大切にする
旅行の目的何を求めているか心身のリフレッシュ、特別な記念日、地域文化の体験
情報収集の手段どこで情報を得るかInstagram、旅行雑誌、口コミサイト
予算感宿泊にかけられる金額1泊2食で2-3万円、特別な日は5万円以上も検討
意思決定の基準何を見て選ぶか雰囲気、料理の質、口コミ評価、写真の印象

既存のお客様データを分析し、リピーターや高評価をいただいているお客様の属性を調べることで、より具体的なターゲット像が見えてきます。

ブランドコンセプトを言語化する

自館の強みとターゲットのニーズが明確になったら、次は「ブランドコンセプト」を作ります。これは旅館の存在意義や提供価値を一言で表現したものです。

効果的なブランドコンセプトの条件は以下の通りです。

まず、シンプルで覚えやすいこと。誰が聞いても理解でき、記憶に残る表現を心がけましょう。

次に、独自性があること。他の旅館でも言えるような一般的な表現ではなく、自館ならではの特徴が伝わる内容にします。

さらに、感情に訴えること。単なる機能説明ではなく、お客様がどんな気持ちになれるか、どんな体験ができるかを想起させる表現が理想です。

例えば、「古民家の温もりに包まれる、何もしない贅沢」「里山の四季を五感で味わう、大人の隠れ宿」といったコンセプトは、施設の特徴とお客様の体験が結びついています。

このコンセプトが、今後のすべての施策の指針となります。

ブランドの方向性を社内で共有・浸透させる

優れたブランドコンセプトを作っても、それがスタッフ全員に理解され、日々の行動に反映されなければ意味がありません。

まず、経営陣からスタッフまで全員が参加するブランディング会議を開催しましょう。なぜブランディングが必要なのか、どのような方向を目指すのかを丁寧に説明し、現場の意見も取り入れることが重要です。

次に、ブランドブック(小冊子)を作成し、ブランドコンセプト、ターゲット像、提供したい体験、接客の基本姿勢などを明文化します。これを全スタッフが常に参照できるようにしましょう。

また、定期的な研修や朝礼でのブランド確認も効果的です。お客様の声を共有し、ブランドコンセプトに沿ったサービスができているかを振り返る時間を設けることで、徐々に組織全体に浸透していきます。

ブランディングは一朝一夕には完成しません。しかし、全員が同じ方向を向いて取り組むことで、確実にお客様に伝わる価値を生み出せます。

ブランド価値を形にする具体的な施策

ブランドコンセプトが定まったら、次はそれを実際の体験や情報発信に落とし込む段階です。ここでは4つの視点から具体的な施策を解説します。

体験価値向上:宿泊体験そのものの差別化

ブランディングの核心は、お客様が実際に体験する価値です。コンセプトに基づいた一貫性のある体験設計が重要になります。

まず、チェックインから客室、食事、入浴、チェックアウトまでの一連の流れを見直しましょう。それぞれの接点で、ブランドコンセプトが体現できているかを確認します。

たとえば、「里山の四季を五感で味わう」というコンセプトであれば、以下のような施策が考えられます。

客室では、地元の木材や和紙を使った内装にし、窓からの景色を最大限に活かす配置にします。アメニティには地域の工芸品や自然素材の製品を選びます。

食事では、季節ごとの地元食材を使った料理を提供し、生産者のストーリーや調理法の説明を添えます。器も地元の陶芸家の作品を使うことで、地域文化への理解を深めてもらえます。

また、オプション体験として、早朝の森林散策、地元農家での収穫体験、伝統工芸のワークショップなどを用意することで、単なる宿泊以上の価値を提供できます。

重要なのは、すべての要素が「なぜそうしているのか」というストーリーで繋がっていることです。

コミュニケーション価値向上:外部発信による認知拡大

素晴らしい体験を用意しても、それが知られなければ意味がありません。ブランドの世界観を正確に伝える情報発信が必要です。

公式ウェブサイトの改善は最優先事項です。トップページでブランドコンセプトを明確に打ち出し、写真や動画で旅館の雰囲気や体験を視覚的に伝えましょう。予約までの導線も分かりやすく設計します。

SNSの活用も効果的です。Instagramでは旅館の日常や季節の風景、料理の写真を投稿し、世界観を継続的に発信します。Facebookでは宿泊プランの案内やイベント情報、地域の魅力を紹介する記事を投稿しましょう。

さらに、ストーリー性のあるコンテンツを作ることも重要です。旅館の歴史、料理長のこだわり、地元生産者とのつながり、四季折々の魅力など、読み物として楽しめる情報を発信することで、ファンを増やせます。

また、メディアへの露出も戦略的に狙いましょう。旅行雑誌やウェブメディアに対して、自館の特徴や取り組みを積極的にPRします。記者や編集者に実際に宿泊してもらい、取材記事として取り上げてもらうことも効果的です。

口コミサイトの管理も忘れてはいけません。お客様のレビューには丁寧に返信し、良い評価は感謝を伝え、改善点の指摘には真摯に対応する姿勢を示しましょう。

ブランドビジュアルの強化:印象を形成するデザイン戦略

視覚的な要素は、ブランドイメージを形成する重要な役割を果たします。一貫性のあるデザインによって、お客様の記憶に残りやすくなります。

まず、ロゴやカラーパレット、フォントなどの基本要素を定めましょう。これらはウェブサイト、パンフレット、看板、備品など、あらゆる接点で統一して使用します。

写真のトーンも統一します。明るく開放的な印象を与えたいのか、落ち着いた和の雰囲気を出したいのか、コンセプトに合わせて撮影スタイルを決めましょう。プロのカメラマンに依頼することで、クオリティの高い素材が手に入ります。

館内のサイン計画も見直しの対象です。案内表示や部屋番号の表示方法、トイレや浴場の案内など、すべてがブランドの世界観と調和するようデザインします。

さらに、客室のインテリアや備品、リネン類、食器なども、統一感を持たせることが大切です。雑多な印象ではなく、洗練された空間を演出することで、ブランド価値を体感してもらえます。

印刷物やノベルティも効果的なツールです。館内に置くリーフレットや、お土産として渡す小物などにも、ブランドの世界観を反映させましょう。

パートナーシップ強化:地域・企業との連携でブランド強化

旅館単体でのブランディングには限界があります。地域や他企業と連携することで、より大きな価値を生み出せます。

まず、地域の観光協会や商工会との連携です。地域全体のブランディング活動に参加し、「この地域に来たらこの旅館」というポジションを確立しましょう。地域イベントの協賛やボランティア活動への参加も、地域への貢献として評価されます。

次に、地元生産者との連携です。農家、漁師、酒蔵、工芸作家などと直接つながり、食材や製品を仕入れるだけでなく、ストーリーを共有します。生産者を招いてのイベントや、お客様が生産現場を訪れるツアーも企画できます。

他業種とのコラボレーションも効果的です。地元のカフェやギャラリー、アクティビティ事業者と提携し、宿泊プランに組み込むことで、滞在価値を高められます。

また、同じ価値観を持つ他地域の旅館とのネットワークも有益です。互いに情報交換をしたり、共同プロモーションを行ったりすることで、個別では難しい取り組みも実現できます。

企業の福利厚生や研修旅行の受け入れも、安定した収益源になります。企業向けのプランを用意し、チームビルディングやウェルネスプログラムを提供することで、新たな顧客層を開拓できます。

まとめ

地方旅館が持続的に成長するためには、価格や設備だけでなく、「この旅館でなければならない理由」を明確にするブランディングが不可欠です。

ブランディング戦略の基本は、自館の強みと地域資源の棚卸し、明確なターゲット設定、ブランドコンセプトの言語化、そして社内への浸透という4つのステップで構成されます。

そのうえで、体験価値の向上、効果的な情報発信、一貫性のあるビジュアル戦略、地域・企業とのパートナーシップという4つの施策を実践することで、ブランド価値を形にできます。

重要なのは、すべての施策がブランドコンセプトに基づいて一貫していることです。単発の施策ではなく、長期的な視点で取り組むことで、お客様から選ばれ続ける旅館へと成長できるでしょう。

地方旅館のブランディングは、地域の魅力を再発見し、新しい価値を創造するプロセスでもあります。まずは自館の現状を見つめ直し、できることから一歩ずつ始めてみてください。