「空き家を民泊にしたいが、届出だけで始められるのか」
「年180日しか営業できないと聞いたが、それで採算は合うのか」
「自治体の条例が厳しくなったという話を聞いた。うちの物件は大丈夫なのか」

民泊についてご相談をいただくとき、この3つが起点になることがほとんどです。とくに3つ目は、2026年7月に国から自治体へ出された通知によって状況が変わりました。これまで「適切ではない」とされてきた、区域を定めて新規の民泊を禁止する規制(いわゆるゼロ日規制)が、条例で可能だと整理されたためです。

本記事では、住宅宿泊事業法(民泊新法)の基本と、いま実務で効いている規制を整理します。そのうえで、180日の枠内で回すのか、旅館業法の簡易宿所に切り替えるのかという分岐についても触れます。条例の内容は自治体ごとに大きく異なります。最終的な判断の前に、必ず物件の所在地を所管する自治体の窓口でご確認ください。

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この記事の監修者

留田 紫雲

株式会社Dot Homes 代表取締役

留田 紫雲

サイバーエージェント、ABEJAでWebメディア運営とデジタルマーケティングに従事後、2015年に大学在学中でDot Homesを創業。2023年に西武ホールディングス傘下入りし、グループ最年少の子会社社長に就任。宿泊施設・スキー場など150以上のリゾートを支援。

民泊には3つの制度がある

法律書と木槌

「民泊」という言葉はひとつでも、根拠になる法律は複数あります。最初にどれで行くかを決めないと、その後の手続きも採算計算も噛み合いません。

住宅宿泊事業法・旅館業法・国家戦略特区法の3制度の比較表
民泊の3制度。物件を選ぶ時点で進む道が決まる
住宅宿泊事業法(民泊新法)旅館業法(簡易宿所営業)国家戦略特区法(特区民泊)
手続き届出許可認定
営業日数年間180日以内制限なし制限なし(最低宿泊日数の定めあり)
用途地域住居専用地域でも可(条例による制限あり)原則として住居専用地域では不可区域指定された範囲内
ハードルの高さ低い高い(設備・消防の要件が重い)中(実施している自治体が限られる)

この記事の主題は1列目の住宅宿泊事業法です。ただし、年間を通して安定した売上を狙うなら、最終的には旅館業法の簡易宿所を目指すことになるケースが多いという前提で読んでください。

180日ルールの数え方

壁掛けカレンダー

住宅宿泊事業法では、民泊として営業できる日数が年間180日以内に制限されています。ここでつまずきやすいのが、数え方です。

4月1日正午起点の180日ルールのカウント期間を示したカレンダー図
180日ルールの数え方と、稼働率49%という前提
  • カウントするのは、ゲストが実際に宿泊した泊数です。募集をかけただけの日は含みません
  • カウント期間は暦年ではなく、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間です
  • 1泊2日の宿泊は1日としてカウントします

4月1日始まりという点は見落とされがちです。年末年始の繁忙期は同じカウント期間の中に入りますが、ゴールデンウィークは期間の頭、年度末は期間の終わりに来ます。繁忙期に日数を残しておく配分を、期の頭に決めておく必要があります。

なお、自治体の条例によっては、180日よりさらに短い日数に制限されている区域があります。「法律上は180日」であって、「どこでも180日使える」わけではありません。

180日で採算が合うかを、先に計算しておく

180日という上限は、稼働率に直すと約49%です。つまりフル稼働しても年間の半分弱しか売上が立ちません。物件の取得費・改装費・管理委託費を回収できるかは、この前提で計算してください。

計算に入れる項目:

  • 実際に埋まる日数(180日上限に対して、何日埋まる見込みか)
  • 清掃費(1回あたり×稼働日数。連泊が少ないほど重くなる)
  • 住宅宿泊管理業者への委託費(家主不在型は必須)
  • OTAの手数料(掲載チャネルによる)
  • リネン・消耗品・光熱費・通信費
  • 近隣対応の手間(金額に出ないが、確実に時間を取られる)

※上限いっぱいまで埋まる前提で計算しないでください。閑散期の平日は民泊でも埋まりません。

届出の前に確認すること

届出書類に記入する手元

住宅宿泊事業は許可制ではなく届出制です。ただし「出せば通る」という意味ではなく、要件を満たしていることが前提です。順番に確認してください。

物件そのものの条件
  • 住宅の要件を満たしているか(台所・浴室・便所・洗面設備があること)
  • 分譲マンションの場合、管理規約で民泊が禁止されていないか。ここで止まるケースがもっとも多い
  • 賃貸物件の場合、貸主の承諾があるか
  • 所在地の自治体が、区域や期間の上乗せ規制を条例で設けていないか
運営体制の条件
  • 家主居住型(自分が住んでいる住宅で営む):管理を自分で行える
  • 家主不在型(自分が住んでいない):国土交通大臣の登録を受けた住宅宿泊管理業者への委託が義務
  • 宿泊者名簿の作成・保存の体制
  • 標識の掲示、非常用照明器具の設置、外国語での案内
  • 近隣からの苦情への対応窓口

投資として民泊を始める場合、ほぼ確実に家主不在型になります。管理委託費は固定費として毎月かかるため、採算計算に必ず入れてください。

いま効いている規制|条例による「ゼロ日規制」

東京・渋谷の交差点

ここが、これから民泊を始める人にとってもっとも重要な変化です。

2026年7月の技術的助言によって条例で可能になった民泊規制のビフォーアフター
ゼロ日規制で何が変わったか

観光庁・厚生労働省・国土交通省は、2026年7月15日付で地方公共団体に対し「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」を発出しました。従来のガイドラインでは「ゼロ日規制は適切ではない」とされていたものが、この助言により「地域の実情に照らし、合理的に必要と認められる限度においてゼロ日規制を行うことが可能」と整理されました。方向転換です。

この助言で、条例により可能とされた規制には次のようなものが挙げられています。

  • 住宅地や教育施設の周辺での、新規の民泊の禁止や営業日数の制限
  • 定住人口や地域コミュニティの維持が困難な区域での禁止
  • 強い必要性がある場合、一定の猶予期間を置いたうえでの既存事業への制限
  • ICTによる管理の義務付け(騒音計・カメラの設置、データの保存など)
  • チェックイン・チェックアウト時間の制限、定員上限の設定

実務上のポイントは3つあります。

第一に、物件を取得する前に条例を確認する必要性が上がりました。これまでは「営業日数が短くなる」程度だった上乗せ規制が、「そもそも新規に始められない」という結論になり得ます。買ってから調べたのでは間に合いません。

第二に、既存の事業にも制限が及ぶ可能性が示されています。猶予期間が置かれる前提とはいえ、いま届出をして運営している物件が、将来にわたって同じ条件で続けられるとは限りません。回収期間の長い投資は、この不確実性を織り込んで判断してください。

第三に、条例の制定は自治体ごとに進みます。この助言は「できる」と整理したものであって、すべての自治体が規制を強化するという意味ではありません。逆に言えば、いま規制がない地域でも、今後条例が制定される可能性はあります。所在地の自治体が条例の検討をしているかどうかは、窓口で確認できます。

180日で回すか、旅館業法に切り替えるか

ドアの鍵を開ける手元

規制が強まる方向にあるいま、判断の軸ははっきりしています。「宿泊業として本気でやるなら、旅館業法の簡易宿所を目指す」ということです。

観点住宅宿泊事業法で続ける旅館業法(簡易宿所)に切り替える
営業日数年180日以内(条例でさらに短い場合あり)制限なし
初期の手間・費用軽い重い(消防設備・構造要件・許可申請)
用途地域住居専用地域でも可能性あり原則として住居専用地域では不可
将来の規制リスク条例による上乗せを受けやすい相対的に安定
補助金の対象宿泊業向けの制度で対象外になることがある対象になりやすい
向いているケース自宅の一部を貸す、副業として小さく回す投資として回収を狙う、複数棟に広げる

補助金の行は見落とされがちです。たとえば観光庁の省力化投資補助事業は、対象を「旅館業法第3条第1項の許可を受けた宿泊事業者」としており、住宅宿泊事業を営む者は対象外です。設備投資の支援を受けたいなら、届出ではなく許可を取る側に立つ必要があります。

税の面でも動きがあります。東京都は令和9年4月1日から宿泊税を定率制(宿泊料金の3%)に変更し、あわせて簡易宿所と民泊(特区民泊・新法民泊)の宿泊者を新たに課税対象に加えます。これまで宿泊税の対象外だった民泊も、都内では徴収と申告の実務が発生します。他の自治体でも、改正のタイミングで対象範囲が広がる可能性があります。

一方で、住居専用地域の物件は旅館業法の許可が原則として取れません。物件を選ぶ時点で、将来どちらに進むかが決まってしまうということです。ここを最初に意識しておくと、あとで詰まりません。

始めたあとに効いてくること

清掃用品

近隣対応は、想像より時間を取られる

騒音・ゴミ出し・共用部の使い方。苦情の多くはこの3つです。ゼロ日規制が認められる背景にも、生活環境への影響が顕在化したことがあります。ハウスルールを多言語で用意し、チェックイン時に必ず確認させる運用を最初から入れてください。あとから足すのは難しく、一度こじれた近隣関係は戻りません。

日数の管理を、感覚でやらない

180日は、繁忙期だけで埋めようとすると足ります。しかし閑散期に安く出して埋めていると、繁忙期の前に上限に達します。期の頭に月ごとの配分を決め、実績を毎月照合してください。定期報告の義務もあるため、記録は結局必要になります。

チャネルはOTA任せにしない

営業日数に上限がある以上、1泊あたりの単価がそのまま採算を決めます。手数料の高いチャネルだけに頼ると、上限まで埋めても手元が残りません。日数が限られている業態ほど、直予約の受け皿を持つ意味が大きくなります。

よくある質問

届出はどこに出すのですか

都道府県知事(保健所設置市などでは市長)が窓口です。物件の所在地によって所管が変わるため、まずは所在地の自治体のホームページで担当課を確認してください。条例の有無も同じ窓口で確認できます。

180日を超えて営業したらどうなりますか

住宅宿泊事業の枠を超えた営業は、旅館業法の無許可営業に該当し得ます。業務停止命令や罰則の対象になります。上限に近づいたら、その期は止める。これは運用でどうにかする話ではありません。年間を通じて営業したいのであれば、旅館業法の許可を取ってください。

いま届出済みの物件が、条例で禁止されることはありますか

2026年7月の技術的助言では、強い必要性がある場合に、一定の猶予期間を置いたうえで既存事業へ制限を及ぼすことも挙げられています。実際にどう運用されるかは自治体の条例次第です。所在地の自治体が条例の改正を検討していないか、定期的に確認しておくことをおすすめします。

まとめ

明るい寝室

民泊は、届出のハードルこそ低いものの、年180日という上限と、条例による上乗せ規制の両方を前提に採算を組む必要がある業態です。2026年7月の技術的助言でゼロ日規制が容認されたことにより、物件を取得する前の条例確認の重要性が一段上がりました。

投資として腰を据えて取り組むなら、住居専用地域を避け、旅館業法の簡易宿所を取れる物件を選ぶ。この一点を最初に決めておくだけで、あとの選択肢が大きく変わります。

本記事の内容は執筆時点で公表されている情報にもとづくものです。条例は自治体ごとに異なり、改正も続いています。実際の手続きにあたっては、必ず物件の所在地を所管する自治体にご確認ください。

参考にした公表資料

  • 観光庁・厚生労働省・国土交通省「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」(2026年7月15日付)
  • 住宅宿泊事業法

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